甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 先日来たばかりの部屋に、こんな短期間のうちに、また来るとは思わなかった。
 先輩は、私を片手で抱えたままドアを開けると、ズカズカと中に入っていく。

「せ、先輩っ……下ろしてっ……!」

「――あきらめろ。お前、下ろした途端に何するか、わからねぇんだから」

「……っ……」

 そう言って、リビングのソファに、そのまま腰を下ろす。
 私は、ギブアップ、と、ばかりに、先輩の胸を押しやった。

「……わ、わかりましたってば!……だから……」

 ――これ以上は、心臓が壊れそうなの!先輩にはわからないだろうけれど!

「――……本当だな?」

「ホントですってば!」

 念を押すと、先輩は、私を自分の隣に座らせた。
 けれど、その視線は動くことなく、こちらを見つめたままだ。

「……先輩?」

「――……あー……っと、だな。……何から話せば良いか……」

 ――そう言えば、話があるって言ってたっけ。

 私は、姿勢を正すと、先輩の言葉を待つ。

 ――たとえ、トドメが来ようと、ちゃんと受け止めないと。

 ――そして、また、一から頑張るんだ。

 先輩は、大きく息を吐くと、私を見下ろし、ジッと見つめる。
 それだけで、心臓は更に跳ね上がった。

「……まず……オレは、何とも思ってねぇ女相手に、付き合うフリするとか――スキンシップとか、そういうモンはできねぇよ」

「……え??」

 ――……どういう……コト……?

 思ってもみない方向からの言葉に、ポカンと開いてしまった口は、もう、閉じる気も無い。
 ただ――次の言葉を待つだけだ。
 すると、先輩は、耳や首まで真っ赤にして、私に言った。

「――……その……この前の告白(アレ)は……あんまりにも予想外だったモンで……」

「……え……」

「別に、お前の気持ちが迷惑とか――その、振るとか、全然思ってなくて、だな……」

 先輩は、困ったように視線をそらし、ガシガシと頭をかく。
 そして、大きく息を吐き、私に真っ直ぐ向き直った。



「――要は、オレも、好きだっつー事だ」



「――……へ??」



 ――……今、何て?


 あまりの展開に、頭が追いつかない。

 ――……好き……?
 ――……先輩が――?

 ――誰を?

 そんなパニック状態の私を、先輩は、自分の広い胸にそっと抱き寄せる。
「……あのなぁ……この状況で、お前以外に誰がいるって言うんだよ」
「え」
 もしかして――口に出てた?
 私は、顔を上げると、真っ赤になったままの先輩を見つめた。

「……先輩……」

「――……いい加減、名前で呼ぶのに慣れてくれ」

「み、美善……さん……」

「よくできました」

 先輩は、そう言うと、私に軽く口づけた。


 ――……へ????


「――……おい、月見?」


 先輩の声が、遠くに聞こえる。


 ――……え?え??

 ――……今……キス、した???


「月見?」

 頬を優しく撫でられ、我に返る。

「――……っ……!!!!」

 ようやく状況を理解し――そして、沸騰してしまった私を、先輩は抱き寄せると、落ち着かせるように優しく背中を撫でた。

「……急だったか?」

「こっ……心の準備がー!ファーストキスなのにー‼」

「――……っ……あのなぁ……」

「予告くらいしてよー!美善さんのバカー!」

 ペシペシと先輩の胸を叩くと、その手は、あっさりと取られる。
 顔を上げれば、もう、そこには先輩のまあまあ端正な顔。

「――バカで結構。――大体、お前、予告したらしたで固まるだろうが」

 ――それは、図星だけど!

 膨れっ面になった私を見やると、先輩は、口元を上げる。

「――……怒るな、可愛いだけだ」

「へ?」

「じゃあ――するぞ?」

「え」

 そう言うと、先輩は、再び私に口づける。
 ――今度は、先ほどよりも――長く。

「……ん……」

 徐々に呼吸が苦しくなり、私は、先輩の胸を叩く。
 その手を取ると、先輩は、ほんの少しだけ唇を離し、私が呼吸するのを確認すると、再び口づける。

 ――ああ、私、本当に、先輩と両想いになれたんだ……。

 キスが優しくて、先輩が、私を大事に想っていてくれるような気がして、うれし涙が浮かんだ。
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