甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 繰り返された優しいキスは、気が遠くなる辺りで、ようやく終わりを迎えた。
 私は、離れるのが名残惜しく感じ、先輩の胸に頬をうずめる。
「おい、コラ」
「……だって……離れたくないんだもん……」
「バカ、煽るな。――そろそろキツイ」
 そう言うと、先輩は、私をそっと離した。
「……くっつくの、ダメ?」
「ダメ、っつーか……オレの理性が耐えきれねぇ」
 キョトンとしていると、あきれたように頬を撫でられた。

「全部すっ飛ばして、襲っても良いのかよ?」

「――……っ……!!!!」

 ようやく意味が理解でき、慌てて距離を取る。
 人一人分を開けると、私は、ガチガチになってソファの上で正座してしまった。
「あのなぁ……極端過ぎるぞ」
「だ、だ、だってっ……こ、こ、こ、心の、じゅっ……準備っがっ……!」
「バカ、ちゃんと段階は踏むって」
「だってぇ……」
 先輩は、苦笑いで私の頭を撫でた。
「――わかってるから、機嫌直せ?」
「……ハァイ……」
 少々ふてくされながらも、胸の奥がギュウ、と、締め付けられて、泣きたくなる。
 けれど――それは、幸せだから。

 ――この生活が始まってから、私は、初めて、心の底から幸せを感じた気がした。



 それから、先輩――美善さんと一緒に夕飯を作る。
 ――まあ、九割以上、彼が作ったのだけれど。
 今日、私は、サラダ用のキュウリを切るというミッションを課され、出来は――まあ、失笑されるレベル。
 しょんぼりと肩を落としていると、耳元で囁かれた。

「落ち込むな。頑張ったな、月見」

「……っ……!」

「お、おい、コラッ!包丁は置けっ!」

 包丁を持ったまま肩を跳ね上げてしまい、美善さんに怒られてしまったけれど、それすらも、うれしいなんて――どうかしている。

「……ごめんなさいー」

「ケガしたら、どうするんだ」

「ハァイ」

「――まあ、今日は、コレで仕上げるか」

 そう言いながら、美善さんは、サラダとチキンソテーを皿に盛りつける。
 私は、ご飯を盛ると、テーブルに並べ、思わず声を上げた。

「――スゴイ!ちゃんとしたご飯だ!」

「……これまでの生活がうかがえる発言だな」

「……だって……料理なんて、したコト無いんだもん……」

 少々拗ねながら言うと、彼は、洗った手を拭きながら、言った。



「――まあ、結婚したら、いくらでも美味いメシ作ってやるよ」



「へ?」



 ――……け、っこ、ん??


「あ」


 固まった私に気づいた美善さんは、自分の発言を思い出し、硬直した。

「――……あー……っと……」

 そして、ごまかそうと何か言いたげにするけれど、すぐにあきらめて、食卓についていた私のそばにヒザを突いた。
「み、美善さん?」
 彼の真っ直ぐな視線に、私は、心臓が爆発しそうだ。

「――まあ、今さらか。……オレは、付き合うなら、結婚するっつー頭だからな」

「――……え……」

 ――……それ、って……


 プロポーズ――……!!??


 あまりの展開に、私は、口をポカンと開けるだけになってしまったのだった――。
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