甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる

 ――結婚するなら、先輩が、良い。

 そう思ったのは、つい最近のコト――だけれど、本当にそんな展開になるとは、思う訳が無いじゃない!


 完全に硬直している私の頭を撫でた美善さんは、苦笑いしながら食卓についた。

「――……そう、固まるな。今すぐどうこうってワケじゃねぇよ」

 私も、同じように向かいのイスに座ると、うつむきながら、もじもじと、何とはなしに手を組んで指をさまよわせてしまう。
「わ、わかってますー……」
「……わかってねぇだろ、それ」
「だ、だって……急すぎて……」
 美善さんは、箸を持ちながら、あっさりと言う。
「急じゃねぇだろ、この鈍感お嬢。大体、結婚目的で、マチアプやってたんだろうが」
「そ、それはそうだけど!で、でも……仕方ないじゃない!……は、初めてなんだもん、こんなの……美善さんと違って……」
 すると、彼は、口元を上げる。

「――願ったりじゃねぇか」

「え?」

「なら、お前の初めては、全部、オレがもらえるってコトだろ」

「――……っ……!!!」

 そして、ご飯を山盛りにしたお茶碗を持つと、私を見やり、あっさりと言った。


「――それに、オレの初めては、全部、お前のモンだしな」


「……は?」

 目を丸くしている私に、美善さんは、苦笑いで食事を進める。
「え?ちょっ……え???」
「さっさと食え。冷めるぞ」
「え、そ、それどころじゃない!……美善さん……は、初めてって……」

「初めては、初めてだ。――言ったと思うが、今まで女っ気なんざ、これっぽちも無ぇんだ」

 私は、完全にフリーズ。

 ――じゃあ……同期の女性社員の人たちが言ってた、お見合いって……。

 そんな私の胸の内も知らずに、彼は、続ける。

「大学まで、ラグビー一筋。社会人になったらなったで、仕事に夢中で、恋愛に現を抜かす余裕も無くてな」

「……で、でも――……」

 ――……お見合いは、する気だったんじゃ……。

 喉まで出かかった言葉は、飲み込んだ。

「――月見、どうした?――引いたか」

「えっ⁉ち、違っ……」

「別に、言いたい事は言っても構わねぇよ」

 少々、拗ねたように言うと、美善さんは箸を進める。
 その表情が――何だか、可愛く思えて、私は、口元を上げた。
「――何だよ」
「いいえー。……じゃあ、お互い、初心者ってコトじゃないですかぁ」
「お前は、初心者でも、若葉マーク三つくらいだがな」
「何それ」
「オレは、辛うじて一つってトコだ」
「そんなトコで、先輩面しないでほしんですけどー」
「じゃあ、お前がリードするのか」
「う・」
 ニヤリ、と、笑われ、真っ赤になる。

 ――で、できるワケ、無いじゃない!

 心の中でそう叫ぶと、私は、お味噌汁に口をつけたのだった。
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