甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「あれ、今、帰り?」
これから出勤なのか、広神さんが、自分の部屋の鍵をかけるところだった。
「こ、こんばんは。……ハイ……」
「ふぅん。ああ、デート?今日は泊まりじゃないんだ」
「――……っ……!」
ニヤニヤとのぞき込まれ、硬直してしまう。
こういったからかいには、慣れるコトは無い。
彼は、苦笑いで身体を起こすと、ガシガシと頭をかいた。
「いや、この前、朝帰りの時、バッチリついてたからさ」
「え?」
――ついてた?何が?ゴミ?
そんな私の反応に、彼は、肩をすくめる。
「キスマーク。彼氏さん、随分、独占欲強いね」
「――……っ……!!??」
目を剥く私に構うことなく、広神さんは、あっさりと片手を上げた。
「じゃあ、オレ、これから仕事だから」
「あ、ハ、ハイ。……お、お疲れ様、です……」
そう返すと、彼は、クッ、と、喉で笑い、階段を下りていった。
私は、その場で呆然と立ち尽くす。
――キスマーク……って……あの時の⁉
私は、先日、美善さんに、首筋に吸い付かれた時のコトを思い出し、硬直してしまった。
そして、慌てて部屋に入ると、声にならない悲鳴を上げる。
――え、ちょっと、待って。
――じゃあ……もしかして、あの時は――本気、だった……?
その事実に、玄関先でジタバタとするが、時間も時間なので、慌てて停止。
バッグを隅っこに投げると、メイクも落とさず、ベッドに飛び込んだ。
そして、先ほどまでの彼を思い浮かべ、ゴロゴロと転がってしまう。
――うわあああ――――‼
――もう、うれしいやら、恥ずかしいやらで、声が出ない!
人生初の恋愛が、実るなんて――なんて、幸せ。
――……パパとママにも、報告しなきゃ。
私は、起き上がると、辛うじて整理されている棚の上にあった、家族写真を見やる。
そして、ベッドから下りて、前に立ち、両手を合わせた。
――……あのね、パパ、ママ。
――……私、恋人ができたよ。
――結婚前提に、お付き合いするコトになったの。
……二人が抱えていたウェディングドレスを着るコトはできないけれど――でも、こんなに幸せだから、許してね……。
伏せていた目を開ければ、笑顔のパパとママ。
そして――二十一歳の誕生日だった私。
その記念で、写真を撮ってくれたのは、増沢だった。
遺影とか、そういうものよりも――記憶の中の二人が良い。
そう言った私に、増沢が差し出してくれた写真だ。
――これが、最後の家族写真でございます。
そして、それを、棚の上に飾ってくれたのだ。
いくら、床が見えなくなろうが――これだけは、ちゃんと見られるところに置いてあった。
――お二人は、いつでも、お嬢様のそばにいらっしゃいますから。
けれど――それを直視するのは、まだまだ辛くて。
だから、こんな風に報告するなんて、思ってもみなかったんだ。
――美善さんには、感謝しなきゃ。
これから始まるだろう、恋人としての彼とのアレコレに思いをはせながら、私は、にじんできた涙を拭った。
これから出勤なのか、広神さんが、自分の部屋の鍵をかけるところだった。
「こ、こんばんは。……ハイ……」
「ふぅん。ああ、デート?今日は泊まりじゃないんだ」
「――……っ……!」
ニヤニヤとのぞき込まれ、硬直してしまう。
こういったからかいには、慣れるコトは無い。
彼は、苦笑いで身体を起こすと、ガシガシと頭をかいた。
「いや、この前、朝帰りの時、バッチリついてたからさ」
「え?」
――ついてた?何が?ゴミ?
そんな私の反応に、彼は、肩をすくめる。
「キスマーク。彼氏さん、随分、独占欲強いね」
「――……っ……!!??」
目を剥く私に構うことなく、広神さんは、あっさりと片手を上げた。
「じゃあ、オレ、これから仕事だから」
「あ、ハ、ハイ。……お、お疲れ様、です……」
そう返すと、彼は、クッ、と、喉で笑い、階段を下りていった。
私は、その場で呆然と立ち尽くす。
――キスマーク……って……あの時の⁉
私は、先日、美善さんに、首筋に吸い付かれた時のコトを思い出し、硬直してしまった。
そして、慌てて部屋に入ると、声にならない悲鳴を上げる。
――え、ちょっと、待って。
――じゃあ……もしかして、あの時は――本気、だった……?
その事実に、玄関先でジタバタとするが、時間も時間なので、慌てて停止。
バッグを隅っこに投げると、メイクも落とさず、ベッドに飛び込んだ。
そして、先ほどまでの彼を思い浮かべ、ゴロゴロと転がってしまう。
――うわあああ――――‼
――もう、うれしいやら、恥ずかしいやらで、声が出ない!
人生初の恋愛が、実るなんて――なんて、幸せ。
――……パパとママにも、報告しなきゃ。
私は、起き上がると、辛うじて整理されている棚の上にあった、家族写真を見やる。
そして、ベッドから下りて、前に立ち、両手を合わせた。
――……あのね、パパ、ママ。
――……私、恋人ができたよ。
――結婚前提に、お付き合いするコトになったの。
……二人が抱えていたウェディングドレスを着るコトはできないけれど――でも、こんなに幸せだから、許してね……。
伏せていた目を開ければ、笑顔のパパとママ。
そして――二十一歳の誕生日だった私。
その記念で、写真を撮ってくれたのは、増沢だった。
遺影とか、そういうものよりも――記憶の中の二人が良い。
そう言った私に、増沢が差し出してくれた写真だ。
――これが、最後の家族写真でございます。
そして、それを、棚の上に飾ってくれたのだ。
いくら、床が見えなくなろうが――これだけは、ちゃんと見られるところに置いてあった。
――お二人は、いつでも、お嬢様のそばにいらっしゃいますから。
けれど――それを直視するのは、まだまだ辛くて。
だから、こんな風に報告するなんて、思ってもみなかったんだ。
――美善さんには、感謝しなきゃ。
これから始まるだろう、恋人としての彼とのアレコレに思いをはせながら、私は、にじんできた涙を拭った。