甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 翌朝、耳元で鳴るスマホのアラームを止めようと、ペシペシと画面を叩くが、一向に音が止まらない。
 私は、少々寝起きの不機嫌も相まって、ムスリ、と、しながら、それを手に取った。

 ――そして、一気に飛び起きた。

「ハッ……ハイッ!津雲田ですっ……!!」

『――おはよう、月見。……お前は、仕事中か?』

 慌てて通話ボタンをタップすると、思わず背筋を伸ばして挨拶してしまった。
 電話の向こうの美善さんは、笑いをこらえているのか、少々震える声で優しく言う。
「……ご、ごめんなさいー……つい……」
『まあ、いい。それより、今日は空いてるか?』
「え?」
 キョトンとして返せば、あきれたように言われた。

『部屋、まだ、完全に片付いて無ぇだろ?行っても良いか?』

「え・あ・えっ……」

 思わず、キョロキョロと部屋を見回してしまう。
 ――以前よりは、まだ、マシ。
 たぶん、美善さん的には、不合格だろうけど。
 でも。

「き、来てくださいっ!待ってますっ!」

『……何か、アヤシイな……』

「アヤしくないっ!……あ、会いたいし……」

 そう伝えれば、彼は、言葉に詰まる。
『……バカ、可愛いコト言うな』
「何が?」
『――……ったく……無自覚かよ……』
「待ってますから!」
『おいコラ、今日は、プライベートだ。行くまでに、敬語は忘れろ』
「う、うん……」
 耳元で囁くように言われ、全身がしびれそうになる。
 通話を終えた私は、スマホを両手で握り締め、思わず睨みつけてしまった。

 ――美善さんのバカ!
 ――……自分こそ、無自覚に、甘い声にならないでよ……。

 大きく息を吐き、私は、部屋を再び見回した。

 ――せめて、出来るトコまで、片付けなきゃ。

 そう決意すると、急いで支度をし、とりあえず床を見せるところまでは、間に合ったのだった。
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