甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.20
「――おお……床が見える……」

「……ちょっと前の私ですか……」

 電話から約一時間半ほどで、美善さんは私のアパートにやって来ると、玄関に入るなり、そう、感心したようにつぶやく。
 私は、ジロリ、と、彼を見上げると、肩をすくめて返された。
「事実だろ。――頑張ってんだな」
「え、あ……ハ……う、うん……」
 ぎこちなくもうなづくと、軽く頭を叩かれた。
「よし、じゃあ、どのくらい片付いたのかチェックだな」
 そう言いながら、チラリ、と、クローゼット方向を見やるので、慌ててダッシュ。
 そして、それを隠すように、彼の前に立ちはだかった。
「おい……」
「ち、違うの!……別に、詰め込んだワケじゃなくて……」
「ああ、見られたくねぇモンなら、開けねぇから」
「――……う、うん……ありがと……」
 罪悪感で、若干笑顔が引きつってしまう。

 ――いや、図星……っていうか……詰め込んだワケじゃなくても、ごちゃまぜになっちゃってるんだもん!

 美善さんから視線を逸らしながら、私は、そっと、距離を取ろうとする――が。

「――と、言うと思うか、ごまかしやがって!」

「うぎゃああっ!!!?」

 ヒョイ、と、荷物を持つように、自分の肩に私を抱え上げると、彼は、あっさりとクローゼットの扉を片方開く。

 ――と、同時に、一気に服がなだれ落ちた。

「……おい……月見」

「ご、ごめんなさぁい……」

 ジロリ、と、睨まれ、彼の肩に担がれたまま、縮こまる。
「……ったく、コレじゃあ、意味無ぇって」
「――……ハァイ……」
 あきれながら床に下ろされると、私は彼に抱き着いた。
「コラ」
「……き、嫌いになった……?」
 私の言葉に、彼は、苦笑いで背中を優しく撫でる。
「ンな訳無ぇだろ。そもそも、今さらだろうが」
「う・」
 確かに――最初っから、あの惨状を見られているのだ。
 ごまかしたって、バレるのは時間の問題。

 ――……でも。

「……だ、だって……ちょっとくらい、成長したって、思ってもらいたいんだもん……」

「してるだろ。――少なくとも、向上心は出てきたんじゃねぇの」

「え」

 思わぬ言葉に顔を上げると、美善さんは、ヒザをつき、視線を合わせる。

「――頑張ろうとしているヤツを、嫌いになんてならねぇよ」

「……うん……」

 そして、そう言って、優しくキスをくれる。
 私は、彼の首元に手を回すと、更に数回。
 繰り返されるそれに、胸はいっぱいになった。
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