甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 少し遅い昼食を、以前のように美善さんと一緒に作る。
 今日は、彼が先にスーパーで買って来た、袋のうどんと、お惣菜の天ぷらセットで、天ぷらうどんだ。
 私は、長ネギを、ゆっくりと時間をかけて切り終える。
 その間に、スタンバイができていたのには、がっくりとしてしまったけれど。

「少しは早くなったな」

「……慰めはいりませんー……」

 シュン、と、肩を落としながらも、天ぷらうどんを口にすると、そのつゆ(・・)の味わいに思わず笑顔になった。

「先輩、コレ、ダシが利いてて美味しいです!」

 そう叫ぶように言って――あ、と、手で口を押さえた。
 やっぱり、油断していると、まだ敬語や先輩呼びが出てしまう。
 けれど、その行動に、彼は、苦笑いで私を見やると言った。

「徐々に慣れていけ。――まあ、先輩、っつーのは、ちょっと背徳感があるが」

「……何、それ」

 美善さんは、それ以上話すコトは無い、と、ばかりに、うどんを口にした。

「そう言えば……この後は、どうするの?」

「ん?」

「……帰っちゃう……?」

 私は、恐る恐る彼を見上げる。
 すると、そのゴツくて長い指にデコピンされ、涙目になった。
「み、美善さん!結構痛いんだからね、コレ!」
「おう、悪い、悪い。――けど、お前も悪いわ」
「何でよ!横暴!」
「叫ぶな、また、壁ドンされるぞ」
「――う・」
 
 ――夜勤専門だから、日中は寝ている事が多い。

 ――広神さん、そんな感じのコトを言っていたな。

 すると、美善さんは、箸を置き、私をジッと見つめる。
「――なあ、月見」
「なあに?」


「――一緒に住むか?」


「――……え?」

 思わぬ言葉に、私は、持っていた箸を、ポロリとテーブルに落とす。
 けれど、そのまま、視線を交わした。

 ――……そ、それって……同棲、って、ヤツ??

 ――え、でも、昨日の今日で、早くない?

 ――いや、うれしい、けど――……。


 頭の中を、そんな疑問がグルグルと回り出す。

 すると、美善さんは、そっと、その大きな手で私の手を包んだ。

「――……この環境に、お前一人置いておきたくねぇ。……心配なんだよ……」

「――……美善さん……」

 私は、彼を見つめ返す。
 その視線は、しっかりと受け止められた。

 ――それだけで、本気だというコトがわかり――だからこそ、動揺が隠せない。
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