きらきらしてきれいだった【アルトレコード】
「この方がコーディネートを考えなくてすんで楽なんだ。研究以外で思考のリソースを割きたくないからね」
 答えに面食らった。そんな大仰な理由があるなんて思いもしなかった。

「さ、行くよ!」
「うん!」
 かおるはアルトが入ったスマホサイズの外出用端末を手に海に向かった。北斗が点検に行く間、海で遊びながら学ぶのだ。
 かおるは胸ポケットのあるシャツにクロップド丈のデニム、足元はサンダルという軽装だった。麦わら帽子をかぶり、体中に日焼け止めをたっぷり塗って来た。大きな荷物はビークルに置いて来たから、今の荷物はミニリュックとバケツと小さな網だ。
 アルトは端末の中だが、短パンにTシャツ、麦わら帽子にサンダルという格好だった。

 ふたりが向かったのは岩がごつごつした磯浜だ。今は干潮で潮だまりがある。
 何人かの親子が楽しそうに水面を覗き込んだり小さな網を差し入れたりしていた。

「アルト、海だよ。今は引き潮で、滿潮のときはここは海底なの」
「海には満ち引きがあるんだよね。でもここ、映画の海と全然違うよ。映画では砂浜で水着の人がいっぱいいたのに」

「こういう海岸もあって、「磯」って言うの。生き物の観察にはこっちのほうがいいよ」
 かおるはリュックから眼鏡型ディスプレイをかけるとフレームにあるスイッチを入れてアルトの端末と同期させた。
 すると、画面の中にアルトの姿がARで表示される。まるで磯に一緒に来ているかのようだ。

 ARは前からある技術だが、アルト専用のこれは北斗が独自に作ってくれた。これを短期間で用意できる北斗は何者だろうか、とかおるは考える。プログラム開発者として有能な人は自然と業界で名を聞くものだが、彼の名前は聞いたことがない。
「さて、なにがいるかな」
 かおるは磯に足を踏み出し、ぺしゃぺしゃと音としぶきをたてながら歩く。海水はほどよく冷たくて心地よい。
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