先生×秘密 〜season2

ここにいたい

冬休みが明けてすぐの午後。
三年生の面談ウィーク。職員室も、どこか緊張が走っていた。

一年生担当のコメも、午後の空き時間を使って、
三年の面談サポートで別室へ顔を出していた。

控室のカーテン越しに、誰かの声が聞こえる。

「大丈夫。焦らなくていい。
君の中にある“好き”を、もう一回一緒に掘り起こそう」

渡部の声だった。
淡々としたトーンの中に、ほんの少しあたたかさがある。
不器用だけど、まっすぐで──
昔から、そうだった。

コメはカーテンの向こうに目をやった。
話を聞く彼の姿勢は、少し猫背で、でも目線は生徒にまっすぐ向いている。

(──変わってない)

だけど、ほんの少しだけ。
あの頃よりも、すこし優しくなった気がする。

ふいに、自分の胸がふっと軽くなるのを感じた。

(わたし……この人と、生徒たちと、
ここで“春”を迎えたい)

**

面談サポートが終わったその夕方。
校長室に、コメは呼ばれた。

「先生、生徒に信頼されてますね。三年の先生たちからも、
“コメ先生、進路指導に向いてる”って声が出てましたよ」

「えっ……そんな、恐縮です」

「来年のことだけど、まだ異動の最終決定ではない。
もしも希望があれば──残るという選択肢もあります」

少し驚いて、コメは顔を上げた。

「……え?」

「現場の声を、上にも届けるつもりです。
……君のような先生には、ここで育ってほしいと思っています」

**

職員室に戻ってきたとき、窓際には、
さっき面談していた生徒が立っていた。

渡部が、付き添うように横に立っている。

「おつかれさま」

コメが言うと、渡部は、ほんの少しだけ目を細めて笑った。

「……おつかれ」

たったそれだけの言葉。
でも、さっき見たあの背中と、校長の言葉が胸の奥でじんわりつながる。

コメは白衣のポケットに手を入れながら、
まっすぐ彼の背中を見つめた。

(まだ、ここにいたい)

ゆらいでいた思いが、そっと輪郭を持ち始めた。
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