満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜
その怒鳴り声に驚いてドアの方を見ると、退社したはずの倉本さんが、鬼のような形相で立っていた。

ゆっくりと、しかし確実に足を進めながら近づいてくる。その目は血走っていて、口からははっきりとアルコールの匂いが漂ってきた。

──危ない、逃げなきゃ!

そう思っても、足がまるで凍りついたように動かない。自分の体が、自分のものじゃなくなったような感覚だった。ただ、怖くて、怖くて……、体が動かない。

その間にも、彼との距離はどんどん縮まっていく。


「おまえのせいで……、おまえのせいで、全部ダメになったんだよ!」


怒鳴り声と同時に、左肩と右手首をガシッとつかまれる。痛みと共に、そのまま後ろへ強く押された。

ドンッ。

背中に鈍い衝撃が走る。あとから広がってくるのは、鈍い痛みと、ガラスの冷たさ。

思わず顔が歪む。

ようやく思考が追いつく。私は今、大きな窓に押しつけられている。

酔っているとはいえ、男性の力は圧倒的だった。なんとか振りほどこうとしても、彼の力のほうが強い。

その顔が、月の光に照らされてはっきり見え、恐怖に息を呑む。

狂気じみた、倉本さんの顔。


「おまえのこの手がなければ、すべてはうまくいったんだ!!」


喚きながら、右手首を力任せに窓へ何度も打ちつけてくる。

あまりの痛みに、呼吸ができない。そして、何もできない自分に、深い絶望が押し寄せてくる。

……、きっと、バチが当たったんだ。
『幸せになってもいいよね』、なんて思ったから。

繰り返される痛み。右手首の感覚が麻痺しはじめる。

声にならない声が、心の中に響く。


「助けて……、熊男……!」
< 22 / 24 >

この作品をシェア

pagetop