クールな同期は、私にだけ甘い。
【琴音side】

「さっきは、ごめんなさい」

弱音を吐いているだけではいけない。そう思った私は、すぐに萩原くんに謝罪した。

「いや。俺もさっきは少し言い過ぎた。諦めず、一緒に頑張ろう」

「……はい!」

私は今、一人じゃない。私には、萩原くんがいてくれるから。

萩原くんはただ厳しく突き放すだけでなく、私に具体的な行動を示してくれた。

彼はユーザーテストの詳細なデータを私の隣に座って一緒に分析し、どこに根本的な問題があるのかを冷静に洗い出した。

「このフィードバックは、ユーザーが情報過多だと感じているサインだ。それなら、まずは情報の優先順位を見直すことから始めるべきだな」

彼の言葉に、私は食い入るように画面を見つめた。

的確な指摘に、私の頭の中で散らばっていた情報が、少しずつ整理されていくのを感じる。

「あとは、ユーザーが求める機能へ、迷わず辿り着けるようにするべきだ」

萩原くんはそう言うと、素早く別のウェブサイトの事例を私のパソコン画面に表示させ、具体的な比較を始めた。

彼の視点と行動は、いつも私より何歩も先を行く。

時には、厳しい意見もぶつけられた。

「桜井、このフォントじゃ、企業の信頼性が伝わらない」

「ここのデザインは、前回指摘したはずだ。なぜ修正されていない?」

私の未熟なデザインを容赦なく指摘されるたび、心にぐさりとくる。

それでも、彼の真剣な眼差しからは、私の成長を願うゆえの行動だと痛いほど伝わってきた。

惜しみないサポートと、決して妥協しない彼の姿勢。その全てに触れるたび、私は彼への想いが本物であることを改めて確信する。

「萩原くんは、私を本気で成長させようとしてるんだ……」

その揺るぎない思いが、私の心を奮い立たせた。

悔し涙は、いつしか「次こそは」という決意の炎に変わっていった。
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