クールな同期は、私にだけ甘い。

連日、私たちは残業を重ねた。時には、オフィスに残っているのが私たち二人だけになることもあった。

静まり返ったフロアで、コーヒーを片手に、ああでもないこうでもないと議論を交わす。

「ねえ。この機能は、本当にユーザーに必要かな?」

「いや、既存のサービスと差別化するためには、この独自性が不可欠だ」

煮詰まっては、互いの意見をぶつけ合い、それでも答えが見つからない夜は、窓の外の夜景をただ二人で眺めることもあった。

きらめく無数のビルの灯りが、遠くまで広がる。東京タワーの赤い光が、夜空にひときわ鮮やかだった。


ある夜。深夜まで続いた議論の末、疲労困憊で思わずデスクに突っ伏してしまった私。

朦朧とする意識の中、温かいものが背中にかけられるのを感じた。

「無理しすぎだ、桜井」

顔を上げると、萩原くんが静かに私の隣に立っていた。

萩原くんがかけてくれたのは、彼のデスクに置いてあったブランケットだ。

そして、私の目の前に、何も言わずに缶コーヒーをそっと差し出した。

温かい……。

「少し、休め」

その声は、いつもよりもずっと柔らかく、疲弊しきった私の心を包み込んだ。

彼のさりげない優しさに、また涙が滲む。

こんなにも、自分のことを気にかけてくれる人がいる。その事実が、凍てついた心を、じんわりと溶かしていくようだった。

「ありがとう」

掠れた声でお礼を言うと、萩原くんは何も言わずに、また自分のデスクに戻っていった。

彼の背中はいつもと変わらないけれど、私にはその優しさが痛いほど伝わってきた。

厳しい状況の中で、私たちの関係は「仕事の同志」から、互いの才能を認め合い、高め合える「かけがえのないパートナー」へと変化していった。

これまで以上に、彼が隣にいることの心強さを感じていた。

萩原くんの存在が、私の心を、そしてデザイナーとしての私を、強くしなやかにしていく。

彼となら、どんな困難も乗り越えられる。そう、私は強く信じ始めていた。
< 34 / 57 >

この作品をシェア

pagetop