クールな同期は、私にだけ甘い。
そんなある日のこと。午前中からずっと会議室にこもりっきりで、デザインの最終調整を終えたのは、すっかり夜も更けた午後十時を過ぎた頃だった。
オフィス街のビル群は、まばらに灯りが点滅している。
「ふう……」
大きく息を吐き出すと、隣でパソコンを閉じる萩原くんがいた。彼の横顔もまた、疲労がにじんで見える。
「桜井、今日の作業はここまでにしよう。よく頑張ったな」
萩原くんの優しい声に、張り詰めていた緊張の糸がふっと緩んだ。
「んんー!」
どっと疲労が押し寄せ、私は大きく伸びをする。肩や首筋が、石のように凝り固まっているのを感じた。
「お疲れ様、萩原くん。なんとか形になったね」
「ああ。ここまで来るのに、本当に大変だったな」
彼が柔らかな笑みを浮かべ、私の顔を覗き込む。その温かい眼差しに、胸がきゅんとなり、思わず俯いてしまった。
萩原くんが立ち上がり、デスクに置いてあった自分のカバンを手に取る。
「この時間だと、開いてる店は少ないけど……もしよかったら、これから軽く夕飯でもどうだ?」
「えっ!?」
「お前を労いたいし、俺も腹が減っててな」
うそ……。
萩原くんの突然のお誘いに、私の心臓が大きく跳ねる。
まさか、彼が食事に誘ってくれるなんて。
初めてのことに、期待と緊張が胸いっぱいに広がっていく。