クールな同期は、私にだけ甘い。
賑やかな大通りを避け、細い路地裏へ入っていくと、古びた提灯の明かりがぽつりぽつりと灯り、昭和の面影を残すような懐かしい雰囲気が漂っていた。
普段、仕事でしか歩かないオフィス街の路地裏に、こんな場所があったなんて。
数分歩くと、こぢんまりとした蕎麦屋が目に入った。
店構えは控えめだが、温かな光が漏れ、出汁の香りがふわりと漂ってくる。
「いらっしゃい!」
ガラガラと店の戸を開けると、威勢の良い女将さんの声が響いた。
店内はカウンター席と小さなテーブル席がいくつかあり、すでに数組のお客さんで賑わっている。
壁には手書きのメニューが貼られ、どこかアットホームな雰囲気がした。
「ここの店、落ち着くんだ」
萩原くんはカウンターの一番奥の席に座り、私にも隣を促した。
並んで座ると、自然と肩が触れ合う距離になる。その距離感が、私の心臓をさらに早くさせた。
湯飲みから立ち上る湯気を見つめながら、私は今日の出来事を思い返す。
プロジェクトが少しずつ前に進んでいること。そして、今、萩原くんと二人でいること。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれた私に、萩原くんが首を傾げる。