クールな同期は、私にだけ甘い。
「ここで待っててください」
萩原くんは、タクシーの運転手さんにそう告げると。
「桜井、ちょっとこっちに来て」
私の住むマンションから少し離れた、街灯の真下にある広めの歩道へと私を促した。
そこは人通りも少なく、周囲のビルの灯りが遠くきらめく、静かな場所。
夜空には細い月が浮かび、柔らかな街灯の光が二人の影を長く伸ばす。
ひんやりとした秋の夜風が吹き抜けるけれど、私の胸は激しく高鳴っていた。
萩原くんは一瞬、「ふぅ」と深く息を吐く。そして次の瞬間……
「!」
彼は、私の手をそっと握った。萩原くんの大きな手が私の手を包み込み、指先から彼の熱が伝わってくる。
「桜井、いや……琴音」
萩原くんのいつもより少し低い真剣な声に、私はドキリとする。
えっ。萩原くん今……私のことを、名前で呼んでくれた!?
突然のことに、私の心臓は今まで感じたことがないくらい大きく跳ね上がる。
まるで雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡り、呼吸すら忘れてしまいそう。
萩原くんの横顔は、夜景の光を受けて、いつもより一層輝いて見えた。
「あのさ。実は、俺……入社したときからずっと、琴音に惹かれてたんだ」
「えっ!?」
うそ。まさか、あの萩原くんが、私のことを想っていてくれたなんて。
「真面目で、いつも一生懸命で。でも、少し不器用で……。そんな琴音を見ていると、ふと思い出すんだ。過去の、俺自身の苦い経験を」
萩原くんは握った私の手にそっと指を絡ませながら、言葉を続ける。