クールな同期は、私にだけ甘い。
「俺は、大学時代に完璧主義すぎたんだ。特に、大学が推進する地域貢献プロジェクトの一環で参加した、全国規模のビジネスコンテストで、論理やデータばかりを追い求めすぎて。チームのメンバーの気持ちや、最終的にその企画を受け取る人々の『感情』を見落としてしまってた」
私は萩原くんの話に、黙って耳を傾ける。
「その結果、最終プレゼンで『共感性が低い』と酷評され、大勢の期待を裏切る形でプロジェクトを失敗させて、多くの人を傷つけた。その時、俺は誰の心も動かせない、ただの機械みたいだと心底絶望したんだ」
彼の意外な告白に、私は息をのんだ。
完璧に見えた萩原くんにも、そんな過去があったなんて。
彼の苦しみが、じんわりと私の胸に伝わってきて……私は彼の手を、そっと握り返した。
「だから、あの日の夜……琴音が企画で煮詰まって、泣きそうになっているのを見たとき、俺は直感したんだ。琴音の中に、俺にはない『誰かの心を温かくできる才能』があるって。そして同時に、過去の俺みたいに、一人で抱え込んで壊れてほしくないって強く思った」
萩原くんは、私の目を真っ直ぐ見つめる。
夜の闇の中でも揺るぎない彼の瞳は、私だけを映していた。
「あの瞬間、どうしようもなく琴音を愛おしく感じて、何も考えずに頭をポンポンって撫でたんだ。そしてあのとき、俺はもう決めてた。琴音の支えになりたいって。だから……ずっと、この気持ちを伝えるタイミングを待っていたんだ」
萩原くんは、これまでの真剣な想いを私に告白してくれた。
彼の言葉が、秋の夜空に吸い込まれるように響き、私の心にも深く沁み渡っていった。