クールな同期は、私にだけ甘い。

蓮との初めてのデートから数日後。オフィスでは、いつもの日常が戻っていた。

社内では、私たち二人の関係はまだ秘密にしている。

お互い仕事に支障をきたしたくないという共通の思いから、あえてその事実を伏せることにしたのだ。

周囲に交際を知られてしまうことで、余計な憶測や気を遣わせることは避けたかった。

だから、仕事中はこれまで通り「同期」として振る舞い、人目を避けるように距離を保つ。

だけど、一度恋人として心を通わせてしまった私たちは、隠しきれない変化を互いに感じ取っていた。


ある日の午後。私は自分のデスクで作業をしていたが、ふと、近くから聞こえる話し声に耳を傾けた。

給湯室でコーヒーを淹れている同僚たちの声が、私の席まで届く。

「ねえ。最近の桜井さん、すごくイキイキしてると思わない?」

「分かる! もしかして、彼氏ができたとか?」

「そういえば、萩原くんも最近、妙に楽しそうにしているときがあるよね。もしかして、あの二人……」

そんな声が聞こえてくるたびに、私はハッと顔を上げ、少し離れた席にいる蓮の背中にそっと視線を送った。

すると、まるで私の視線に気づいたかのように、蓮がわずかに肩を揺らして振り返る。

彼は少し口元を緩めて、私にだけわかるようにそっと微笑んだ。

「ふふっ」

蓮との秘密めいたやりとりに、私は思わず笑みをこぼす。私たち二人の間には、秘密を共有する喜びと、確かな絆が生まれていた。
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