クールな同期は、私にだけ甘い。
彼女はいつものように颯爽とした立ち姿で、私に優しい視線を向ける。
「桜井さんのデザイン、本当に素敵よね。あのカラフルな色使い、見る人に元気を与えるわ。特に、あの遊び心のあるフォント選びは、桜井さんらしさ全開ね。社内報のウェブ版リニューアルポスターを見て、私もあなたのセンスに惹きつけられたのよ」
嬉しい。まさか、あの星野さんにまでそう言ってもらえるなんて。
彼女の称賛を素直に喜び、自信を持って受け止めることができた。
以前、彼女に対して抱いていた劣等感や才能への不安は、もうどこにもない。
この瞬間、私は自分の成長を確かに感じ、大きな喜びに包まれた。
秋の気配が深まり、日はすっかり短くなった。
夜が訪れると、日中の喧騒はどこか遠くへ消え去り、オフィス街は静寂に包まれる。
そんなある日の夜。残業を終え、私は誰もいないオフィスに一人でいた。
フロアの奥から、キーボードを叩く微かな音だけが聞こえ、張り詰めたような静けさが広がる。
私は温かいコーヒーを片手に、自分のデスクに向かった。
ディスプレイはすでに暗く、キーボードの上には埃がわずかに積もっている。
ここは、あの夜に蓮と出会い、初めて彼に心を許した場所。私にとって、特別な意味を持つ忘れられない原点だ。
ディスプレイの電源を落とし、ただぼんやりと窓の外の夜景を眺める。