【マンガシナリオ】ノイズまみれの恋に溺れて ―感情ミュートな私の、恋の始まり。
第5話
■冒頭モノローグ
〈藍理の優しい笑顔の回想〉
雫月(本当に、好きになっちゃったんだ——)

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■Scene1:
夏合宿初日 ―合宿会場・開放的なロビー
〈瑛人と親しそうに笑いながらロビーに入っていく藍理を目で追う雫月。熱っぽい視線と、藍理が輝いて見える描写〉

千夏「雫月ってば!」
雫月「へ?ごめん、なに?」

〈千夏の呼び掛けに気付かずぼんやりとしていた雫月を千夏も花梨も呆れた様子で見つめる〉

千夏「海めっちゃ綺麗だねって!」
花梨「夜、遊びに行こうよ!って!どしたのぼんやりして……」
雫月「ううん、そうだね!夜行こ〜!」

〈ロビーから続く練習場へ入りきゃっきゃと盛り上がる二人に雫月も笑みをこぼす〉

莉子「おーい1年生!感動そこまでにして、いったん集合して!」
1年一同「はーい」

〈莉子の呼びかけに答え、練習場でみんなで集合する。他校含め倍の人数でも十分すぎる練習場に雫月はキョロキョロする〉

七海「移動お疲れ様でした。いよいよですがこれから1週間、2大学合同での夏合宿が始まります!みんなでたくさん踊っていい思い出にしましょう。とりあえず今日は交流会です!」

〈早速立ち上がって盛り上がる上級生と、少し遅れて拍手をする1年生〉
〈音源のスイッチが押され、会場に洋楽が流れる。ダンス交流会の開始。運営サイドとして、七海や莉子が軽くダンスを踊り、歓声が響く〉

女子「藍理さんも!お願いします!」
藍理「えー?俺は……」
女子「いいから!」

〈押し出されるようにして、中央に出た藍理のパフォーマンス〉

藍理「えー……まじ?」

〈戸惑い半分で、すぐに音をつかみ、藍理が軽やかに踊る。彼のダンスに黄色い歓声が飛ぶ〉

雫月(やっぱり……輝いてる。届かないくらい遠くにいるのに、目が離せない)

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■Scene2:
同日 ―合宿スタジオ

〈一通り交流したあと、ジャンルごとに分かれてあいさつ。ジャズチームは、雫月たち4人と他校3人の7人〉

沙耶「おー、2人入れたか、やるじゃん七海」
先輩「昨年は朔一人だったもんね」
七海「おかげさまで、いい子たちっすよ」
先輩「うちの1年も負けてないよ」

〈久しぶりの再会を楽しむ先輩方。取り残された雫月も含め3人の1年生(男1、女1)はそのやり取りを見つめながら、小さく会釈をし合う〉

沙耶「じゃー早速ペア決めといきましょうか」

〈合宿内で、お互いにアドバイスをし合うペアを置いて交流を図るのが例年の流れ。他校との関わりがメインのため、唯一先輩である七海が雫月のペアになる〉

雫月(朝の人……)

〈視線が合い、人見知りが発動した雫月はあたふたと沙耶に1歩近づく。七海は眉を下げて柔らかく笑う〉

七海「縁が、あるね」
雫月「あ……えっと、はい……」
七海「緊張してる?」
雫月「はい、あのちょっと……人見知りしちゃって……」
沙耶「大丈夫よ、七海くん優しいから。七海くん、雫月をよろしくね。慣れたら話すようになると思うから」

〈沙耶に押し出され、七海の隣へと並ぶ雫月。七海は気にしていない様子で、笑って軽くストレッチをして準備運動をする〉

七海「とりあえず今日はさらっと振り入れだけして、あとは交流も兼ねてのんびり話そうか」

〈最終日にみんなで踊る予定の課題ダンスがある。運営の七海はもちろんその内容を把握しているので、振り入れから始まった〉

七海「おっけ。振りは入ってそうだね、一回一緒に通してみよ」

〈七海になれていない雫月は、 緊張から小さな動きしかできない。振りも飛びがち〉

七海「えー、なんでそんな不安そうなの。出来てるから自信持って!」

〈動きが硬い雫月に対して、七海は少し考える素振りをしてから、その場に座り込んだ〉

七海「あー!疲れた!ちょっと休憩にしよ!雫月ちゃんも座って座って!」

〈流されるようにその場に腰を下ろす〉

七海「腹減ったな〜。あ、そういえば……ここのご飯基本的に美味しいんだけど、カレーの福神漬けだけは気をつけて、衝撃的な味がする」
雫月「福神漬けがですか……?」
雫月(福神漬け、大体一緒だと思うけど……)
七海「まじなんだよ!去年俺驚いて出しそうになっちゃって、先輩に超笑われたんだよね。不味いわけじゃないんだけど、なんかこう、想像とは全然違う味なんだよね……」

〈雫月は思わず吹き出してしまい、七海はそれを見て嬉しそうに微笑む〉

〈そのあとも、全然違う話題のCMダンス(キッズ用)をノリノリで踊ったり、気楽な時間が流れる。雫月の緊張も解れ、笑顔が見えるように〉

七海「あはは、超いい感じ!よしじゃあこのまま……」

〈課題ダンスの音源に、合わせて踊る。体が軽く、緊張が溶けた様子で思い通りに表現できる。その感覚がはじめてくらいの心地よさで雫月も楽しくなる〉

〈七海は、少し驚いた様子で見つめた後優しく微笑んでいる〉

七海「いいじゃん……。あんなに自信なさそうだからちょっと心配してたけど、ほんっとうに綺麗、見惚れちゃった」
雫月「……え、そんな、やめてください。大袈裟です」

〈自然に笑い合って、二人が既に打ち解けている描写〉
〈遠くからそれを見つめる藍理。その様子に気付いた沙耶が声をかける〉

沙耶「気になるの?」
藍理「……なにが?」

〈沙耶に突っ込まれとぼけるように笑い、七海と雫月の空間へと入っていく〉
〈沙耶はその背中を見つめた後、もう一度雫月に視線をうつす。闇がある感じ〉

藍理「ジャズ組ちゃんとやってるかぁー?」
雫月「七海さん、めちゃくちゃ教え方上手で勉強になってます!」
藍理「おー?よかったじゃん。確かに七海去年から上手かったよね」
七海「え、ありがとうございます」

〈藍理と会話を始めてから、明らかに口数が増えて、嬉しそうに見える雫月に、七海は恋心を察知する〉

七海(この子も藍理さんのファンか、すごい人だなほんと)

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■Scene3:
3日目 ―合宿所ロビー、夕方の自由時間

〈女子部屋で各々がくつろぐ中、財布を持って外に出ようとする雫月。千夏が気付いて声をかける〉

千夏「雫月どっか行くのー?」
雫月「飲み物買ってくる〜」

〈その日の練習が終わって自由時間になり、雫月がひとり外に出る。ロビーの自動販売機に向かう〉

女子たち「私、藍理さんのこと、本当に推してて!」「彼女とかいるんですか?」
藍理「えー、いないいない。ありがとね」

〈偶然ロビーで、藍理が他大学の女子たちに囲まれているのを見つけて、出るに出られず曲がり角で立ち止まってしまう〉

女子「えー!?なんでですか!?」
「絶対モテますよね!?」

雫月(……藍理さん、他校からも人気なんだ。私、好きだって自覚はしたけど、どう頑張ったらいいんだろう……)

〈影に隠れたまま、その様子を伺う。楽しそうな藍理の表情に胸が痛む。そこに呆れた顔をした沙耶が登場〉

沙耶「……藍理」
藍理「あー、みんなごめんね。これからミーティングなんだ」

〈残念そうにしながらその場を立ち去る女子たちと、それに対して笑顔で手を振る藍理。人がいなくなったあと藍理は少し笑顔を崩す。それを見て呆れた顔をした沙耶は藍理がいるソファの肘掛けに腰を浅くかける〉

雫月(沙耶さんといるときは、またちょっと雰囲気が違って見えるんだよね……)

〈笑顔が薄まった藍理を、思わず影から見つめてしまう雫月。沙耶と気を抜いて話す様子に少し胸が痛む〉

沙耶「集合場所でまで女の子を集めるなんて、モテ男は大変ですね」
藍理「分かりやすい嫌味やめろって」

〈藍理が軽く笑って、沙耶と二人で幹部会が行われる食堂へと向かう。出るタイミングを失った雫月はそのまま隠れている〉

沙耶「まーた、誰彼かまわずあんな対応して。本当良くない男だよ」
藍理「いいんだよ、好いてくれるのは嬉しいし。恋愛なんてそのくらいで十分」

〈隠れていたせいで、その会話を聞いてしまい、ショックを受ける〉

雫月(……女関係ではいい噂は聞かなかったけど。やっぱり……大変な人を好きになっちゃった……)

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■Scene4:
3日目夜 ―お風呂

〈千夏、花梨とお風呂へ行く〉

花梨「やばい、福神漬けの味が絶妙に残ってる」
千夏「あー、あれびっくりしたよね、全然福神漬けじゃなかった」
雫月「ふふ」

〈初日に聞いた七海の助言を思い出して笑う雫月〉

〈湯船につかると先に入っていた先輩方の会話が聞こえた〉

先輩A「沙耶さんと藍理さんってさ、結局何にもないのかな?」
先輩B「分かる、本人たちはそう言ってるけど、実際わかんないよね」
千夏「え、私もそれ気になってました」
先輩A「だよね、なんかあのふたりって特別感あるんだよね〜」
先輩B「わかる、お互いに気許してる感じするよね!」

〈GIRLSの先輩がいたからか、物怖じせず会話に入っていく千夏から視線を逸らして、雫月はぼんやりとしながら鼻まで湯船に浸かる〉

花梨「雫月?大丈夫?」
雫月「うん?大丈夫だよ?」

〈にこやかに返すけれど、花梨は何かを察している様子だった〉

雫月(先輩の言ってること、めちゃくちゃ分かる。さっきも素を出し切っている様子だったし、他の女の子には見せない顔を見せてた。沙耶さんが特別なんだとしたら、私なんて敵わないよね……)

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■Scene5:
同日20時頃 ―お風呂から出たすぐ隣にある休憩所

〈雫月たち3人がお風呂上がりに休憩所に出ると、卓球をしていた七海と遭遇〉

七海の友人「うえーい!俺の勝ち〜〜!」
七海「あーーもう、また負けた……!あれ、雫月ちゃんだ」
雫月「あっ、お疲れ様です」

〈流れで七海の友人たちと千夏たちが卓球をはじめ、雫月の隣には七海が座る〉

七海「おつかれ〜、お風呂ゆっくりできた?」
雫月「はい……今日、いっぱい動いたから……癒されました」
七海「分かる、今日ハードだったよね〜」

〈何気ない会話から、少しずつ心がほぐれていく〉

花梨「あ、瑛人さんと藍理さん」

〈審判をしていた花梨が、お風呂から出てきた瑛人と藍理に目敏く気付いてそうつぶやき、雫月が反射的に視線を向ける〉
〈藍理と視線が合い、いつものようににこやかに手を振られる。そのままあっさりと部屋に帰っていってしまう〉

雫月(……ちょっと、話したかったなぁ)

〈合宿が始まってから、見かける藍理さんはいつも誰かと一緒にいてゆっくり話す時間はなかった。ついつい雫月は後ろ姿を見えなくなるまで見つめてしまう〉

七海「藍理さん、話しかけなくてよかったの?」
雫月「……えっ!?」

〈七海の言葉に驚いて勢いよく振り返る〉

七海「いや、違ったらごめんね。藍理さんファン多いから、雫月ちゃんもそうなのかなって、勝手に」

〈雫月は驚いたあと、顔を真っ赤にして両手で軽く隠す〉

雫月「あはは……間違いではない、です、ね」
七海「あはは、やっぱそうなんだ」

〈飛んできたピンポン玉を器用にキャッチして投げ返す七海〉

七海「大変だね、ライバルが多いと」
雫月「いや、ライバルなんて思わないです。私なんて……勝てるところない、し」

〈今日見たあれこれを思い出して、少しずつ声が萎んでいく〉

七海「そんなことないでしょ。ちゃんと話すようになってまだ数日だけど、俺、結構雫月ちゃんの良いとこ知ってるし」
雫月「それは……っ、七海さんがお世辞上手なだけですよ」
七海「ううん、雫月ちゃん自身が持ってるものだと思うよ。全然言えるし。常に一生懸命でまっすぐなとことか、練習に向かう態度は尊敬するし。視野も広いよね、先輩が何かしてたらすぐ動こうとするでしょ、あとダンスも……」

〈七海は、楽しそうにこれまでの雫月を思い出しながら次々口にする。聴きながら雫月はどんどん赤面していき挙動不審に〉

雫月「な、ちょ、ストップ!もういいです……」

〈恥ずかしそうに七海を見つめ、少し頬を膨らます雫月。目は潤んでいる。七海はその表情に驚いたように視線を奪われ、ハッとして反射的に視線を逸らす〉

七海「ご、ごめん!あは、なんか恥ずかし……」

〈七海も頬を赤くし挙動不審になる。変な雰囲気になって、少しの間のあと笑い合う〉

七海「ちょっと、恥ずかしいけど、でもほんとどれも雫月ちゃんの良いとこだと思ってるから、せっかくなら自信もった方がいいじゃん?」

〈まるで悩みを知っているかのような七海の言葉が雫月に響く。雫月は、小さく頷く〉

雫月「ありがとうございます。ちょっと、勇気でました!」
七海「うん、そのほうが絶対楽しいでしょ」

〈柔らかく笑う七海。安心感に雫月も微笑み返す。その様子を千夏たちと七海の友人がニヤニヤと見つめている〉

千夏「ねえ、雫月もやろ〜!ダブルス!」
七海の友人「七海も!やろうぜ」

〈雫月と七海向かい合って笑い合う。立ち上がってみんなで卓球で騒ぐ様子。雫月も楽しそうに笑っている〉

七海(あんな風に照れるなんて、ちょっと藍理さんに妬けるかもな)

〈その楽しそうな声を、近くの自販機前で聞いている藍理(瑛人もいる)の様子を最後に写す。少し不機嫌そうな表情〉

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(第5話終了)
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