双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~3
私は首を傾げる。てっきりご自身の経験から言っていると思ったのだ。
ルイゾン様はそんな私を見て、また小さく笑う。
「君がそう願っているんじゃないかと思ったんだが、違ったかな」
その通りだった。
――それも顔に出ていたのかしら。
私は素直に認める。
「おっしゃる通りですわ。この機会にお友だちができたらいいなと思っていました。クラリエ王国のエミリエンヌ様とは親しくさせていただいていますが、文通は時間がかかりますし……日常的に関われるお友だちがいればふたりにとっても張り合いが出ると思っていたんです」
「私も同じ意見だよ」
そのゆったりした笑顔に父としての思いを感じ、私はずっと気になっていたことを口にする。
「あの……本当にシャルロット様のご冥福をお祈りする時間は作らなくていいでしょうか」
直系の王子であるロベールとマルセルの誕生パーティが今まで開かれなかったのは、五歳と十歳の誕生日を重んじる風習からだが、シャルロット様の命日が同日なのも無関係ではない。おめでたい日と悲しい日が重なってしまったのだ。
差し出がましいとは思ったが、シャルロット様に思いを馳せる時間を取ってはどうかと以前ルイゾン様に提案したのだが、必要ないとのことだった。
今回も、ルイゾン様はあっさりと首を横に振る。
「ジュリアの気持ちはありがたいが、シャルロットの名前を出すとくだらない俗信を連想する奴がいるかもしれない」
不吉な双子を出産したからシャルロット様が亡くなったと主張する人がいたのだろう。
それ以上強く言えずに、引き下がる。
「わかりました」
すべてはロベールとマルセルのためなのだ。
肖像画の中のシャルロット様の燃えるような赤毛を思い出しながら、私はお茶を飲み干した。
‡
「それではまたのちほど」
「ああ、また夜」
ジュリアの執務室を出たルイゾンは、微妙に重い足取りで宮廷に向かった。
ルイゾンが執務をこなし、客をもてなす場所は、ここからやや離れた宮廷だ。
王妃の宮殿とも呼ばれるこの離宮は、ジュリアや王子たちの生活の場所も兼ねている。
再婚後、ルイゾンはこの離宮と宮廷だけを往復している。王の宮殿と呼ばれる本宮殿も所有しているが、今ではほとんど足を運んでいない。
昔からルイゾンを知る者はそのことを意外に思っていた。
『悪魔の黒髪』を持つ継母にルイゾンがここまで執心するなんて、といったところだろう。勝手な憶測が、ルイゾンの耳にも入ってきている。
曰く、ジュリアの策略。ルイゾンの気まぐれ。王子たちの遊び相手としての結婚。
――どれも違う。
王子たちの継母としてジュリアを抜擢したことは間違いないが、忙しさの合間を縫ってまで顔を見に行く理由はそれだけではない。
――ジュリアは決して気付いていないだろうが。
苦い笑みを浮かべつつ宮廷に足を踏み入れると、文官のレスターが眼鏡を光らせながら向かってくるのが見えた。
「陛下、こちらでしたか」
ルイゾンよりひとつ年下のレスターは、今日も濃い茶色の髪をオールバックにしている。
外見に気を遣っているわけではなく、単に書類が見やすいかららしい。
そんな理由が納得できるくらい仕事ができる男だが、口うるさいのが玉に瑕(きず)だ。
案の定、レスターは非難がましい口調で続けた。
「遅いので迎えに来ました」
回廊を並んで歩きながら、ルイゾンは答える。
「子どもじゃないんだ。わざわざ迎えに来る必要はない」
「ですが遅かったので」
リストを渡すにしては時間がかかったと言いたいのだろう。ルイゾンは諦めたように肩を竦める。
「お茶を一杯飲んだだけだ」
歩く速度を速めながら、レスターは言った。
「王妃殿下はいかがでしたか」
「今日もどこか不自然だった」
「またですか。どうされたんでしょうね」
――そんなこと、こっちが知りたい。
ルイゾンは言葉を呑み込んで、あえて余裕を感じさせる笑みを浮かべた。
レスターのことは信用しているが、ここはまだ人が多い。王と王妃が不仲だなんて噂を立てられたら一大事だ。
政治的な意味ではなく、ルイゾンの個人的な感情として。
――しかし、理由がわからないな。
何人かの使用人とすれ違いながら、ルイゾンは考える。
ジュリアの様子がおかしいことは随分前から気付いていた。不自然に目を逸らす上に、明らかに一緒にいる時間を減らそうとしているのだ。
寝る前に、暖炉前で寛ぐ習慣があるのだが、それすら手短に済ませようとする気配がある。
「あまりにも気になるようでしたら、直接お聞きになればいいのでは?」
レスターがルイゾンの内心を読んだかのように呟いた。
ルイゾンは素っ気なく応じる。
「お前は馬鹿だな」
ルイゾン様はそんな私を見て、また小さく笑う。
「君がそう願っているんじゃないかと思ったんだが、違ったかな」
その通りだった。
――それも顔に出ていたのかしら。
私は素直に認める。
「おっしゃる通りですわ。この機会にお友だちができたらいいなと思っていました。クラリエ王国のエミリエンヌ様とは親しくさせていただいていますが、文通は時間がかかりますし……日常的に関われるお友だちがいればふたりにとっても張り合いが出ると思っていたんです」
「私も同じ意見だよ」
そのゆったりした笑顔に父としての思いを感じ、私はずっと気になっていたことを口にする。
「あの……本当にシャルロット様のご冥福をお祈りする時間は作らなくていいでしょうか」
直系の王子であるロベールとマルセルの誕生パーティが今まで開かれなかったのは、五歳と十歳の誕生日を重んじる風習からだが、シャルロット様の命日が同日なのも無関係ではない。おめでたい日と悲しい日が重なってしまったのだ。
差し出がましいとは思ったが、シャルロット様に思いを馳せる時間を取ってはどうかと以前ルイゾン様に提案したのだが、必要ないとのことだった。
今回も、ルイゾン様はあっさりと首を横に振る。
「ジュリアの気持ちはありがたいが、シャルロットの名前を出すとくだらない俗信を連想する奴がいるかもしれない」
不吉な双子を出産したからシャルロット様が亡くなったと主張する人がいたのだろう。
それ以上強く言えずに、引き下がる。
「わかりました」
すべてはロベールとマルセルのためなのだ。
肖像画の中のシャルロット様の燃えるような赤毛を思い出しながら、私はお茶を飲み干した。
‡
「それではまたのちほど」
「ああ、また夜」
ジュリアの執務室を出たルイゾンは、微妙に重い足取りで宮廷に向かった。
ルイゾンが執務をこなし、客をもてなす場所は、ここからやや離れた宮廷だ。
王妃の宮殿とも呼ばれるこの離宮は、ジュリアや王子たちの生活の場所も兼ねている。
再婚後、ルイゾンはこの離宮と宮廷だけを往復している。王の宮殿と呼ばれる本宮殿も所有しているが、今ではほとんど足を運んでいない。
昔からルイゾンを知る者はそのことを意外に思っていた。
『悪魔の黒髪』を持つ継母にルイゾンがここまで執心するなんて、といったところだろう。勝手な憶測が、ルイゾンの耳にも入ってきている。
曰く、ジュリアの策略。ルイゾンの気まぐれ。王子たちの遊び相手としての結婚。
――どれも違う。
王子たちの継母としてジュリアを抜擢したことは間違いないが、忙しさの合間を縫ってまで顔を見に行く理由はそれだけではない。
――ジュリアは決して気付いていないだろうが。
苦い笑みを浮かべつつ宮廷に足を踏み入れると、文官のレスターが眼鏡を光らせながら向かってくるのが見えた。
「陛下、こちらでしたか」
ルイゾンよりひとつ年下のレスターは、今日も濃い茶色の髪をオールバックにしている。
外見に気を遣っているわけではなく、単に書類が見やすいかららしい。
そんな理由が納得できるくらい仕事ができる男だが、口うるさいのが玉に瑕(きず)だ。
案の定、レスターは非難がましい口調で続けた。
「遅いので迎えに来ました」
回廊を並んで歩きながら、ルイゾンは答える。
「子どもじゃないんだ。わざわざ迎えに来る必要はない」
「ですが遅かったので」
リストを渡すにしては時間がかかったと言いたいのだろう。ルイゾンは諦めたように肩を竦める。
「お茶を一杯飲んだだけだ」
歩く速度を速めながら、レスターは言った。
「王妃殿下はいかがでしたか」
「今日もどこか不自然だった」
「またですか。どうされたんでしょうね」
――そんなこと、こっちが知りたい。
ルイゾンは言葉を呑み込んで、あえて余裕を感じさせる笑みを浮かべた。
レスターのことは信用しているが、ここはまだ人が多い。王と王妃が不仲だなんて噂を立てられたら一大事だ。
政治的な意味ではなく、ルイゾンの個人的な感情として。
――しかし、理由がわからないな。
何人かの使用人とすれ違いながら、ルイゾンは考える。
ジュリアの様子がおかしいことは随分前から気付いていた。不自然に目を逸らす上に、明らかに一緒にいる時間を減らそうとしているのだ。
寝る前に、暖炉前で寛ぐ習慣があるのだが、それすら手短に済ませようとする気配がある。
「あまりにも気になるようでしたら、直接お聞きになればいいのでは?」
レスターがルイゾンの内心を読んだかのように呟いた。
ルイゾンは素っ気なく応じる。
「お前は馬鹿だな」