双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~3
 だが、プレソールが嘘をついているように思えない。ルイゾンは無難な答えを口にした。


「そうですね。ほどほどに仲よくやっていると思います。宰相は他になにか言っていましたか?」

 宰相がジュリアとルイゾンを冷やかすためだけにプレソールにそんな話をしたとは思えない。

 なにしろ、再婚相手にジュリアを選んだと告げた時、最後まで反対したのが宰相だったのだ。『悪魔の黒髪』を王家に入れるなんて不吉だ、と。

 だが、プレソールは思い当たる節のなさそうな顔で返す。

「いや、特には。結婚してからお前が楽しそうだと、それだけだ」

 ルイゾンは内心で首を傾げる。

 ――単なる世間話か? いや、あの宰相が意味のない話などするだろうか。

 ルイゾンが進めている髪色にとらわれない雇用制度に、反対の立場を取っているのが宰相だ。観察眼の持ち主であるルイゾンが、髪色と人の資質がいかに関係ないか熱弁しても頑なに聞き入れない。

 だが、再婚に関しては、最終的に宰相が折れた。

 ルイゾンの方が立場が上――権力を手にしているからだ。

 銀髪で生まれたふたりの息子たちのどちらかを即位させることが、『観察眼』を与えられた自らの宿命だと思っているルイゾンは、この忠臣の提案を突っぱねたことを悔やんではいない。だが、警戒は怠らない。

 それからも変わりなくルイゾンに仕えている宰相だが、プレソールと交流があったとは知らなかった。偶然だろうか。それとも。

 プレソールは邪気のない態度で話を続ける。

「宰相もアンティークの鍵に興味があったらしく、それで最近話をしたんだ」
「……そうなんですね」

 ――趣味が一致しただけか?

 腑に落ちなかったが、それ以上は言葉を呑み込んだ。

「それではありがとう。弟よ。心から感謝する」

 残りの焼き菓子を全部頬張って、プレソールは満足そうに帰っていった。

          ‡

 その日の夜。

 いつものようにベッドの端と端に横になって眠る前に、ルイゾン様が呟いた。

「……兄上が、西棟の外れに錠前工房を作ってくれと言っている」

『兄上』と聞いた私がまず思い浮かべたのは、結婚式でしかお会いしたことのないプレソール王兄殿下の独特の体型だ。時折ルイゾン様のところを訪れて、珍しいお菓子や変わった食べ物が欲しいなど、子どものようなおねだりをしていることは知っていた。だが。

 ――錠前工房?

「えっと……なぜですか?」

 思いつきで作るには突飛すぎる。

 戸惑いが伝わったのか、ルイゾン様はふっと笑った。

「パズルのようで楽しいらしい。害はないと思うが、念のため、君や王子たちはあの辺りに近付かないようにしてほしい」

 お付きの人や使用人の中に髪色で差別する人がいたら、王子たちが傷付くことになる。ルイゾン様が心配しているのはそういうことだろう。

「わかりました」
「ありがとう」

 その吐息混じりの返事に、心が揺れる。ルイゾン様の気配になぜか集中してしまう。

 ――今日は月が出ていないから、きっとそのせいだわ。

 いつもより部屋の闇を濃厚に感じてしまうのだ。

 そんな私の気持ちの揺れも暗闇を通してルイゾン様に届きそうで、落ち着くために細く息を吐く。

 その沈黙を眠気ゆえと捉えたのか、ルイゾン様が確認した。

「ジュリア、魔力は大丈夫か」
「はい。大丈夫です」

 私の特殊能力『予知』は悪夢と対になって、夢という形で現れる。

 魔力過多による暴走が予知として現れるのではないかと仮説を立てているが、実際はわからない。

 魔草に魔力を吸わせると悪夢も予知も見ないのは確かなので、毎晩寝る前にルイゾン様が確認してくれるようになった。予知を繰り返すとかなり疲れる上に、現実と夢の境目の判断がつかなくなるのだ。おかげで、最近は悪夢を見ない。

 ――その代わり、胸が苦しくなる時があるけれど。

 ルイゾン様が息を吐く気配がした。

「じゃあ、寝よう。おやすみ、ジュリア」
「おやすみなさいませ、ルイゾン様」

 いつものそんな挨拶でさえ、動揺してしまう時がある。もちろんルイゾン様には伝えない。

 いろんな気持ちを閉じ込めるように、私はゆっくり瞼を閉じた。

 眠気はすぐに訪れた。

          ‡

 同じ頃。

 プレソールは場末の酒場のカウンターで、帽子を深くかぶっている髭面の男に話しかけた。

「錠前工房を作る約束を取りつけた」

 男は隠しても隠しきれない上品さを纏って答える。

「さすがですね」

 変装しながらのやり取りが、お互い滑稽だった。

 宮廷ではできない話だからと、この場所を指定したのは髭面の男だ。店内を満たしている下品な騒がしさが、秘密を共有するのにもってこいでプレソールも気に入っていた。

「では手順通り、ここにある材料を煮詰めて作った聖水を、次の満月の夜に錠前に振りかけて、掲げてください」

 メモを受け取ったプレソールは男に確認する。

「……これで本当に望みが叶うんだろうな」

 髭の男は薄く笑った。

「もちろんです。今さら怖気づいたのですか」

 プレソールはマルゴーの温かな笑顔を思い浮かべて答える。

「まさか。何年準備してきたと思うんだ。目的のためならなんでもする。たとえ弟を裏切ることになっても」
「さすがです」

 髭の男――宰相は嬉しそうに頷いた。

< 6 / 9 >

この作品をシェア

pagetop