冷徹な国王は隣国の王女を愛してやまない
エスタリア王国は、王都が平地に位置している一方で、大部分が険しい山間部に広がっているため、王女であっても統率者として立つことは許されなかった。

王国の未来は、主に男性の王族に託されており、女性であるセレナにはその役目を担うことはできない現実があった。

病に倒れた兄・アルトリアスを見舞うことしかできないセレナは、無力感に苛まれていた。

「兄上…」

私は、弱々しく寝ている兄の姿を見つめながら、静かに呟いた。

アルトリアスはまだ若く、王として国を導くべき立場にある。

しかし、病に倒れてからは、王国を支える役目を果たせなくなっていた。

「セレナ…」

荒い息遣いの中、兄は私に目を向け、かすれた声で呼びかけた。

「早く治して、山間部に向かうんだ。国を…私は王として立たねばならない。」

その言葉を聞いて、私は胸が痛んだ。

兄は病に倒れても、まだ王としての責任を果たすことを諦めていない。

それでも、私には何もできない。

王女として、兄の役目を補うことができない自分の無力さに、心が震えた。
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