絆の光は未来へ

光希side

あゆかが診察室を出ていくドアが、静かに閉まる。その背中を見送りながら、光希は卓上の電子カルテに向き直った。

画面には、先ほどまで診察していたあゆかのデータが表示されている。炎症の進行度合い、そして「いつも通り」という彼女の言葉の裏に隠された、微かな苦痛のサイン。

(……やはり、少し粘膜が荒れている。前回より、症状が進んでいるかもしれない……)

佐々川あゆか、17歳。幼馴染みである彼女の病歴は、彼の医学生時代から、深く胸に刻まれている。あの時、13歳で発症し、ただそばにいることしかできなかった無力感が、彼を産婦人科医の道へと突き動かした原点だ。

プロの医師として、俺は視線は瞬時に患部へと集中させる事が出来ている。炎症の有無、粘膜の状態、分泌物の量と色……。

あゆかの気が重くなるのは重々承知で行っている。だが、触診で得られる情報は画像診断だけでは分からない、あゆかの身体の微細な変化を教えてくれる。

ただ同時に彼の脳裏には、幼い頃のあゆかの笑顔や、無邪気な声が去来する。そして、4年前、まだ医学生だった彼が、病室のベッドで涙を流すあゆかを、ただ見守ることしかできなかったあの日の記憶も。

(彼女の尊厳を、何よりも守らなければならない)
医師としての使命感が、個人的な感情に蓋をする。

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