絆の光は未来へ
光希の胸の内は、静かな波紋が広がっていた。医師として、彼は正確な診断を下し、最善の治療方針を伝えることができた。

しかし、幼馴染みとしての感情は、決して冷静な判断を下しただけでは済まされない。

(無理をしていることはないか、か……)

彼は、先ほどのあゆかの「いえ、特に……大丈夫、です」という返答を反芻した。その言葉の奥に、彼女が抱え込んでいるであろう疲労やストレスを、光希は痛いほど理解していた。

衛生看護学科での実習やレポートの多忙さは、光希自身も医学生時代に経験している。ましてや、あゆかは持病を抱えている。

あゆかの姿をみて、再度光希の脳裏には、4年前のあゆかの姿が鮮明に蘇る。まだ13歳。病室の白いベッドで、幼い顔を歪ませて涙を流していたあゆか。あの時、自分はただ彼女の手を握り、医学生として何もできない無力感に苛まれるしかなかった。

今、自分は医師として、彼女の病と向き合っている。あの時の無力感は、もう感じさせない。そう誓ったはずだ。

しかし、同時に、彼は別の感情とも戦っていた。
患者としてのあゆかと、愛しい幼馴染みとしてのあゆか。

診察中は、あくまでプロの医師として、彼女のデリケートな身体と真摯に向き合った。その手つきも、言葉も、細心の注意を払ったつもりだ。

だが、内診台の上で、カーテンの向こうに感じた彼女の震え。そして、その開かれた身体が、彼の医師としての冷静さを、時折、試すように感じられたのも事実だ。
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