絆の光は未来へ
最初は戸惑ったが、すぐに光希は目を閉じ、その温かい感触を受け入れた。

柔らかな唇が触れ合い、わずかに開かれる。彼女からの、まさしく「キス」だった。甘く、そしてどこか切ない感触が、光希の心を震わせた。

それは、失ったと思っていた愛情の証だった。長い間封印されていた夫婦の絆が、ようやく解き放たれた瞬間だった。

しかし、その温かい密着の中に、光希はあゆかの身体がわずかに震えているのを感じ取った。それは、恐怖や不安からくる震えではなく、何かを乗り越えようとする、あるいは、乗り越えられたことへの、喜びと解放感にも似た震えだった。

あるいは、彼への深い愛情と、それを伝えられたことへの高揚感からくるものかもしれない。長い間抑え込んでいた感情が、ついに表に現れたのだ。

光希は、言葉にならない感謝と愛おしさを込めて、そっとあゆかの背中を抱き返した。彼女の肩甲骨の下に手を置き、優しく円を描くようになでた。

「震えてる…俺が怖くないのか?」

「光希は違う…あの人とは全然違う。」

この瞬間が、どれほどの意味を持つか、彼には痛いほど分かった。これは、あゆかが自分自身を取り戻し、未来へと向かう、確かな一歩だった。

そして、光希自身もまた、愛する妻を失ったという恐怖から解放された瞬間でもあった。

「あゆか...」光希は彼女の名前を呟いたが、それ以上の言葉は必要なかった。二人の心は、言葉を超えて通じ合っていた。

そして光希はあゆかの後ろで静かに涙を流していた。
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