婚約破棄されましたが、聖女様ごとまとめてざまぁさせていただきます ~平凡令嬢、イケメン魔導師に拾われ溺愛される~
「でも私には、民衆の心を掴む素晴らしい能力がありますわ」

シェレナさんはそう言って、にこっと微笑んだ。

その瞬間、確かに――彼女の周囲にいた男性たちが、うっとりと見惚れているのがわかった。

まるで魔法にかかったかのように、目を細めて、彼女を賛美するような視線。

私は思わず、眉をひそめた。

「ああ、いえ……そういう能力じゃなくて」

声に出すつもりはなかったのに、言葉が漏れていた。

男の心を掴むことが、王太子妃にとっての“素晴らしい能力”ですって?

そんなもの、いくらでも替えが利く。

大切なのは、王太子ただ一人に忠誠を尽くし、愛されること。

そして、国母となる覚悟と責任を持って、王家を支えること。

見た目の愛らしさや、男の視線を集めることに満足しているようでは、到底務まらない役目なのに――

なのにルディエル様は、そんな彼女を選んだ。

胸の奥が、じくじくと痛んだ。

私は、なにを信じて、なにを夢見てきたのだろう。
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