野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
「姫にこういう物語を読み聞かせてはいけませんよ。さすがに秘密の恋をする主人公に(あこが)れることはないでしょうが、『こういうことが世の中にはあるらしい』と慣れてしまわれるだけでも問題ですからね」
玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)がお聞きになったらびっくりなさるような、潔癖(けっぺき)な父親ぶりでいらっしゃる。

「ええ。物語に出てくる(あさ)はかな人のまねを現実でしているのは、見ている側も嫌な気がいたしますものね。これは姫君にはお見せしないとして、こちらの物語はいかがでしょうか」
(むらさき)(うえ)は『うつぼ物語』を広げてお続けになる。
「この物語の主人公は重々(おもおも)しい性格で軽率(けいそつ)な振舞いはしませんが、あまりに発言がはっきりしすぎていて女らしさがありません。これも姫君にはよろしくないでしょうね」

源氏の君は女性の性格についてご意見をおっしゃる。
「実際の女性もそうなのですよ。それぞれ自分なりの考えがあって振舞うから、ちょうどよい性格の人が少なくて困ります。しっかりした親が育てても、娘の性格がどうなるかは分からない。必ずしも品よく(たしな)(ぶか)く育つわけではないらしいのです。おっとりだかぼんやりだか分からない娘に育つと、親の(しつけ)のせいにされて気の毒なものです。しかし、身分にふさわしい娘に育てば、親は苦労が(むく)われたとうれしく思うでしょうね。

あとは、周りの女房(にょうぼう)たちがむやみやたらと持ち上げないことです。大げさにほめているのを(うわさ)で聞いて会いにいくと、がっかりすることが多い。あれは逆に娘の価値を下げることになる。そういう調子のよいことを言い広める女房は、娘の近くに置かないほうがよいでしょうね」

明石の姫君を欠点のない女性に育てようと、源氏の君はいろいろお考えになっている。
たくさんある物語のなかで、意地悪な継母(ままはは)が登場する昔話も、姫君にふさわしくないとお隠しになった。
紫の上のことを、<実は心のなかは意地悪でいらっしゃるのかも>と姫君がお思いになったら大変だから。
姫君のご教育によさそうな物語を厳選(げんせん)して、清書させたり絵を描かせたりなさったわ。
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