マカロン文庫10周年記念企画限定SS
限定SS:田崎くるみ『【極上の結婚シリーズ】御曹司は愛しの契約妻へ溺愛を滴らせる』
『幸せな悩み』
双子の翼(つばさ)と望(のぞ)海(み)とは、七歳違いで誕生した光莉(ひかり)もすくすくと育っていった。
赤ちゃんだった光莉もいつの間にか三歳となり、できること、話せる言葉も増えている。
そうなると、宝石に目がない翼と、着物大好きな望海のプレゼンが毎日のように繰り広げられていた。
「光莉、どうだ? 宝石ってキラキラしていて綺麗だろ?」
「着物だって様々な刺繍がされていて、一点ものなのよ」
「それを言ったら宝石だって一点ものだ」
「着物には奥深い味わいがあるわ」
「着物だけとは限らないだろ?」
光莉にプレゼンしていたはずが、いつの間にか言い合いをするふたりに、私と篤さんは頭を抱える。
「ふたりとも、いい加減にしろ」
ヒートアップしそうなところで篤さんが止めに入ると、ふたりは頬を膨らませた。
「だって翼が!」
「だって望海が!」
さすがは双子と言うべきなのだろうか。見事に声をハモらせた。
「俺はただ、光莉にも宝石を好きになってもらいたいだけなんだ」
「私だって光莉に着物の素晴らしさを知って、好きになってもらいたいだけなの」
最近のふたりは、それぞれ自分の好きなものを光莉に勧めている。最初は篤さんと、「微笑ましい光景ですね」なんて言って眺めていたけれど、連日続いているとなると、そうも言っていられなくなった。
私もふたりに声をかける。
「翼と望海の光莉にも好きになってもらいたいって気持ちはわかるわ。でも、好きになるのは光莉でしょ?」
「そうだけど……」
バツが悪そうに見つめ合うふたりの頭を、篤さんは優しく撫でる。
「翼も望海も、多くのものに触れてそれぞれ宝石と着物を好きになったんだ。光莉も自分の好きなものを必ず見つけるだろう。その時は、光莉の気持ちを第一に考えてやるんだぞ」
「うん、わかってる」
「光莉が選んだものなら、文句は言えないもの」
聞き分けのいいふたりに、私も篤さんもホッとした。
一方の光莉はというと、飽きてテレビに夢中になっている。そんな光莉を翼が抱きしめた。
「ごめんな、光莉! 兄ちゃんは光莉が好きなもの、将来やりたいことがなにであっても応援するからな」
「お姉ちゃんもだよ」
微笑ましい三人を眺めながら、篤さんが「とりあえず、大丈夫そうかな」と囁いた。
「そうですね」
「ふたりとも、すっかり将来の夢は決まったな」
「はい」
翼は宝石関係の仕事に就きたいと言っており、望海は東郷屋の跡取りとして、今も学校帰りや休みの日には店先に立っている。
幼くして夢を抱くことはすごいことだ。親ながら誇らしい。
「そうだ、今度陽奈子のジュエリーコーディネーター一級合格のお祝いをしよう」
「本当ですか? ありがとうございます」
つい先日、無事に資格を取得することができた。合格を家族全員が自分のことのように喜んでくれて、勉強は大変だったけれど頑張ってよかったと心底思えた。
これでいっそう仕事に対してモチベーションが上がった。
「家族ではもちろん、実家に子供たちを預けてふたりっきりでもお祝いしよう」
「え?」
三人には聞こえないよう耳打ちしてきた彼に、びっくりしてしまう。すると篤さんは愛おしそうに私を見つめた。
「たまには、ふたりでデートしよう」
「篤さん……」
夫婦になっても、恋人のように甘い時間を過ごすことを大切にしてくれる。出会ってからだいぶ時間が経っているというのに、篤さんに対する好きって気持ちが大きくなっている。
「はい、ありがとうございます」
「デートプランは俺に任せてくれ」
「それはますます楽しみです」
見つめたまま笑い合っていると、翼が口を開いた。
「ところで光莉は将来、なにになりたいんだ?」
もう話は終わったと思っていたのが甘かったようだ。
「もちろんお姉ちゃんと一緒に東郷屋を継ぐことよね?」
「違うだろ、お兄ちゃんと一緒に宝石の店で働くんだ!」
また始まってしまったふたりの言い合いに篤さんと呆れる中、光莉が笑顔で言った。
「光莉はねー、大きくなったら健太君のお嫁さんになるの」
思わぬ光莉の爆弾発言に、真っ先に反応したのは篤さんだった。
「なに? どういうことだ? 光莉!」
すかさず聞く篤さんに、光莉は「健太君にね、この前プロポーズされたんだよ」なんて言う。
「パパは健太君のこと知らないぞ?」
「お兄ちゃんだって知らない! どこのどいつだ、光莉にプロポーズするなんて許せない!」
今度はべつのことで大騒ぎが始まった。今日も賑やかな我が家に頭が痛くなるも、幸せを噛みしめずにはいられなかった。
<終>
双子の翼(つばさ)と望(のぞ)海(み)とは、七歳違いで誕生した光莉(ひかり)もすくすくと育っていった。
赤ちゃんだった光莉もいつの間にか三歳となり、できること、話せる言葉も増えている。
そうなると、宝石に目がない翼と、着物大好きな望海のプレゼンが毎日のように繰り広げられていた。
「光莉、どうだ? 宝石ってキラキラしていて綺麗だろ?」
「着物だって様々な刺繍がされていて、一点ものなのよ」
「それを言ったら宝石だって一点ものだ」
「着物には奥深い味わいがあるわ」
「着物だけとは限らないだろ?」
光莉にプレゼンしていたはずが、いつの間にか言い合いをするふたりに、私と篤さんは頭を抱える。
「ふたりとも、いい加減にしろ」
ヒートアップしそうなところで篤さんが止めに入ると、ふたりは頬を膨らませた。
「だって翼が!」
「だって望海が!」
さすがは双子と言うべきなのだろうか。見事に声をハモらせた。
「俺はただ、光莉にも宝石を好きになってもらいたいだけなんだ」
「私だって光莉に着物の素晴らしさを知って、好きになってもらいたいだけなの」
最近のふたりは、それぞれ自分の好きなものを光莉に勧めている。最初は篤さんと、「微笑ましい光景ですね」なんて言って眺めていたけれど、連日続いているとなると、そうも言っていられなくなった。
私もふたりに声をかける。
「翼と望海の光莉にも好きになってもらいたいって気持ちはわかるわ。でも、好きになるのは光莉でしょ?」
「そうだけど……」
バツが悪そうに見つめ合うふたりの頭を、篤さんは優しく撫でる。
「翼も望海も、多くのものに触れてそれぞれ宝石と着物を好きになったんだ。光莉も自分の好きなものを必ず見つけるだろう。その時は、光莉の気持ちを第一に考えてやるんだぞ」
「うん、わかってる」
「光莉が選んだものなら、文句は言えないもの」
聞き分けのいいふたりに、私も篤さんもホッとした。
一方の光莉はというと、飽きてテレビに夢中になっている。そんな光莉を翼が抱きしめた。
「ごめんな、光莉! 兄ちゃんは光莉が好きなもの、将来やりたいことがなにであっても応援するからな」
「お姉ちゃんもだよ」
微笑ましい三人を眺めながら、篤さんが「とりあえず、大丈夫そうかな」と囁いた。
「そうですね」
「ふたりとも、すっかり将来の夢は決まったな」
「はい」
翼は宝石関係の仕事に就きたいと言っており、望海は東郷屋の跡取りとして、今も学校帰りや休みの日には店先に立っている。
幼くして夢を抱くことはすごいことだ。親ながら誇らしい。
「そうだ、今度陽奈子のジュエリーコーディネーター一級合格のお祝いをしよう」
「本当ですか? ありがとうございます」
つい先日、無事に資格を取得することができた。合格を家族全員が自分のことのように喜んでくれて、勉強は大変だったけれど頑張ってよかったと心底思えた。
これでいっそう仕事に対してモチベーションが上がった。
「家族ではもちろん、実家に子供たちを預けてふたりっきりでもお祝いしよう」
「え?」
三人には聞こえないよう耳打ちしてきた彼に、びっくりしてしまう。すると篤さんは愛おしそうに私を見つめた。
「たまには、ふたりでデートしよう」
「篤さん……」
夫婦になっても、恋人のように甘い時間を過ごすことを大切にしてくれる。出会ってからだいぶ時間が経っているというのに、篤さんに対する好きって気持ちが大きくなっている。
「はい、ありがとうございます」
「デートプランは俺に任せてくれ」
「それはますます楽しみです」
見つめたまま笑い合っていると、翼が口を開いた。
「ところで光莉は将来、なにになりたいんだ?」
もう話は終わったと思っていたのが甘かったようだ。
「もちろんお姉ちゃんと一緒に東郷屋を継ぐことよね?」
「違うだろ、お兄ちゃんと一緒に宝石の店で働くんだ!」
また始まってしまったふたりの言い合いに篤さんと呆れる中、光莉が笑顔で言った。
「光莉はねー、大きくなったら健太君のお嫁さんになるの」
思わぬ光莉の爆弾発言に、真っ先に反応したのは篤さんだった。
「なに? どういうことだ? 光莉!」
すかさず聞く篤さんに、光莉は「健太君にね、この前プロポーズされたんだよ」なんて言う。
「パパは健太君のこと知らないぞ?」
「お兄ちゃんだって知らない! どこのどいつだ、光莉にプロポーズするなんて許せない!」
今度はべつのことで大騒ぎが始まった。今日も賑やかな我が家に頭が痛くなるも、幸せを噛みしめずにはいられなかった。
<終>