マカロン文庫10周年記念企画限定SS
限定SS:春川メル『エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない ~プラトニックな関係はここまでです~』
「私、朔夜さんとお酒を飲んでみたいです!」
ニコニコ顔の愛しい婚約者にそう言われたのは、金曜の夜、風呂から上がってリビングに戻ったときのこと。
俺より前に風呂を済ませてルームウェア(もこもこしていて非常に触り心地がいいし陽咲に似合っていてかわいい)に着替え、血色のいいすっぴん(言うまでもなくかわいいし見るたびこの素顔を見せてもらえる距離感を噛みしめている)をさらけ出している陽咲が座るソファに、俺も腰を下ろした。
「いや……知ってると思うけど、俺、酒に弱いから」
まったく飲めないわけではないけれど、少しの量で酔いが回ってしまうのだ。
というか、その酒のせいで理性が飛んでずっと想いを寄せていた陽咲に手を出してしまった前科を、彼女は気にしないのだろうか。紆余曲折あったが最終的に彼女と両想いだったとわかりこうして恋人同士になれて、現在幸せな同棲生活を送ることができているとはいえ……酒には気をつけねばと、いっそう心に刻んだ出来事なのだ。
ソファに座って遠い目をする俺の横から、陽咲が首をかしげるように下から顔を覗き込んでくる。
「わかってます。外じゃなくてお家で、ほんのちょっとだけでいいですから。度数があまり高くないものを用意してあるんです!」
「なんでそこまで……」
基本的に控えめな性格の彼女が、今はやけにグイグイくる。不思議に思いつつこぼすと、陽咲はほんのり頬を赤く染めて視線を逸らした。
「だって……前に朔夜さんが酔ったとき……」
「……うん」
「なんか、ちょっと……かわいかったので、また見たいなって」
俺は天を仰いだ。婚約者のいっそ感動を覚えるほどの愛らしさにやられて。
「そうやって、陽咲はすぐ俺の心をもてあそぶ……」
「もてあそんでませんよ⁉ あ、でも、いいってことですか?」
本人は自覚がないが実は甘え上手な彼女にキラキラした目でそう問われ、うなずかないわけにはいかない。
まあ陽咲がいいならと、俺は了承したのだった。
「……この体勢、飲みづらくないですか?」
私がつぶやくと、すぐ上から「全然」と機嫌よさそうな声が答える。
現在、私はラグの上に座った朔夜さんの膝にのせられすっぽり抱きすくめられた状態で、缶チューハイをちびちびと飲んでいる。ちなみに彼も同じシリーズの缶チューハイを片手に持っていて、ともにアルコール度数は五%。けれども朔夜さんのこのご機嫌っぷり、完全に出来上がっている。たぶんまだ半分くらいしか飲んでないのに。
「陽咲を抱きしめながら飲む酒は美味いな……陽咲は最高の肴……むしろ陽咲がメイン……」
いつもの頼れる印象が嘘みたいに、ちょっとよくわからないことを言っている。ずっと後頭部にすりすりされていてくすぐったい。
でも……やっぱり、少しかわいいかも。
無防備な彼の姿に胸をきゅんきゅんときめかせている私は、片手を伸ばして朔夜さんの髪をなでた。
彼はうっとりと目を閉じて、されるがままである。……んんん、かわいい……。
傍らのローテーブルに缶を置き、本格的に両手でわしゃわしゃと頭をなでくりまわした。これは……まるで大きいわんちゃんだ……。
んふふふふ、とつい笑い声を漏らした私も、実は結構酔っているのかもしれない。自宅だから気が緩んでいるのかな。
「陽咲」
いつの間にか私と同じように缶を手放していた朔夜さんが、私の名前を呼んで頬を手のひらで挟んだ。
ふわ、と甘く顔をほころばせた彼に、そのまま唇を奪われる。たわむれのようなそれに最初は私も微笑みながら応えていたけれど、そのうちだんだん、深さと激しさを増していく口づけを受け止めきれなくなってきた。
「ん、んん、は、あ……っ」
体重をかけられ、とさ、と背中からラグに倒される。濃厚なキスを解いて身体を起こした朔夜さんは照明を背に私を見下ろしながら、湿った自らの唇をペロリと舌で舐めた。
その壮絶な色気をまとった仕草に、心臓が痛いくらい高鳴る。ごく、と思わず、唾を飲み込んだ。
「……ああ、そのとろけた顔もかわいいな、陽咲――」
それから、私は。獰猛な獣と化した彼によって、思う存分たっぷりと愛されてしまって。
目覚めたベッドの上で全身あちこちに残る情事の痕跡に頬を熱くしながら隣の健やかな寝顔をうらめしく見つめ、しばらく朔夜さんにお酒を飲ませるのはやめておこうと心に誓ったのだった。
<終>
ニコニコ顔の愛しい婚約者にそう言われたのは、金曜の夜、風呂から上がってリビングに戻ったときのこと。
俺より前に風呂を済ませてルームウェア(もこもこしていて非常に触り心地がいいし陽咲に似合っていてかわいい)に着替え、血色のいいすっぴん(言うまでもなくかわいいし見るたびこの素顔を見せてもらえる距離感を噛みしめている)をさらけ出している陽咲が座るソファに、俺も腰を下ろした。
「いや……知ってると思うけど、俺、酒に弱いから」
まったく飲めないわけではないけれど、少しの量で酔いが回ってしまうのだ。
というか、その酒のせいで理性が飛んでずっと想いを寄せていた陽咲に手を出してしまった前科を、彼女は気にしないのだろうか。紆余曲折あったが最終的に彼女と両想いだったとわかりこうして恋人同士になれて、現在幸せな同棲生活を送ることができているとはいえ……酒には気をつけねばと、いっそう心に刻んだ出来事なのだ。
ソファに座って遠い目をする俺の横から、陽咲が首をかしげるように下から顔を覗き込んでくる。
「わかってます。外じゃなくてお家で、ほんのちょっとだけでいいですから。度数があまり高くないものを用意してあるんです!」
「なんでそこまで……」
基本的に控えめな性格の彼女が、今はやけにグイグイくる。不思議に思いつつこぼすと、陽咲はほんのり頬を赤く染めて視線を逸らした。
「だって……前に朔夜さんが酔ったとき……」
「……うん」
「なんか、ちょっと……かわいかったので、また見たいなって」
俺は天を仰いだ。婚約者のいっそ感動を覚えるほどの愛らしさにやられて。
「そうやって、陽咲はすぐ俺の心をもてあそぶ……」
「もてあそんでませんよ⁉ あ、でも、いいってことですか?」
本人は自覚がないが実は甘え上手な彼女にキラキラした目でそう問われ、うなずかないわけにはいかない。
まあ陽咲がいいならと、俺は了承したのだった。
「……この体勢、飲みづらくないですか?」
私がつぶやくと、すぐ上から「全然」と機嫌よさそうな声が答える。
現在、私はラグの上に座った朔夜さんの膝にのせられすっぽり抱きすくめられた状態で、缶チューハイをちびちびと飲んでいる。ちなみに彼も同じシリーズの缶チューハイを片手に持っていて、ともにアルコール度数は五%。けれども朔夜さんのこのご機嫌っぷり、完全に出来上がっている。たぶんまだ半分くらいしか飲んでないのに。
「陽咲を抱きしめながら飲む酒は美味いな……陽咲は最高の肴……むしろ陽咲がメイン……」
いつもの頼れる印象が嘘みたいに、ちょっとよくわからないことを言っている。ずっと後頭部にすりすりされていてくすぐったい。
でも……やっぱり、少しかわいいかも。
無防備な彼の姿に胸をきゅんきゅんときめかせている私は、片手を伸ばして朔夜さんの髪をなでた。
彼はうっとりと目を閉じて、されるがままである。……んんん、かわいい……。
傍らのローテーブルに缶を置き、本格的に両手でわしゃわしゃと頭をなでくりまわした。これは……まるで大きいわんちゃんだ……。
んふふふふ、とつい笑い声を漏らした私も、実は結構酔っているのかもしれない。自宅だから気が緩んでいるのかな。
「陽咲」
いつの間にか私と同じように缶を手放していた朔夜さんが、私の名前を呼んで頬を手のひらで挟んだ。
ふわ、と甘く顔をほころばせた彼に、そのまま唇を奪われる。たわむれのようなそれに最初は私も微笑みながら応えていたけれど、そのうちだんだん、深さと激しさを増していく口づけを受け止めきれなくなってきた。
「ん、んん、は、あ……っ」
体重をかけられ、とさ、と背中からラグに倒される。濃厚なキスを解いて身体を起こした朔夜さんは照明を背に私を見下ろしながら、湿った自らの唇をペロリと舌で舐めた。
その壮絶な色気をまとった仕草に、心臓が痛いくらい高鳴る。ごく、と思わず、唾を飲み込んだ。
「……ああ、そのとろけた顔もかわいいな、陽咲――」
それから、私は。獰猛な獣と化した彼によって、思う存分たっぷりと愛されてしまって。
目覚めたベッドの上で全身あちこちに残る情事の痕跡に頬を熱くしながら隣の健やかな寝顔をうらめしく見つめ、しばらく朔夜さんにお酒を飲ませるのはやめておこうと心に誓ったのだった。
<終>