番外編「休日のバーテンダーズ」
ダイニングのテーブルで兄が朝食を終える頃、寝ぼけ眼の弟が洗濯カゴを手にダイニングに入ってきた。
いちおう身なりは整えてきたが、どう見ても起きている顔ではない。顔色がない。黒いTシャツに黒いスポーツ用のボトム。はだしだ。
「しー、おはよ」
「……」

起きてはいないけれど洗濯物はたたむ。しーと呼ばれた青年はアールの向かい側の椅子に座り、ていねいに洗たく物をたたみ、
兄と自分のものをわける。でも寝ているように見える。いつもテキパキしているはずの動きが緩慢。おなかいっぱいの子猫みたいだ。
「しー、それお兄ちゃんやるから、おまえは朝ごはん食べな」
「……」

聞いてはいるけれど返事をしたくないらしい。だるくて。アールは再び深いため息をつき、弟の分の朝食をあたためる。
低血圧と言うわけではない。ただ夜更かしをしたらしい。夜の3時頃に帰宅して風呂に入り、それから本を読みふけったようだ。
朝食があたたまる頃、弟は洗たく物をたたみ終え、洗たくカゴの中に兄の分と分けてていねいに入れた。

「しー。
おまえがごはん食べたら、俺、家の中全部掃除機かけるからな」
「ん」
「おまえの部屋もだぞ」
「……」

しーはぶすくれながらみそ汁を飲んだ。アールはやれやれと思いながら自分の洗たく物を自室に片付けた。
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