彼が甘いエールをくれたから
「心配かけてごめんね」
「いや……謝らせたいわけじゃないんだけど」

 ただそこに立っているだけなのに、仕事のできる男の余裕と自信を纏っているから不思議だ。
 だからこそ上司や同僚からの信頼も厚いのだと思う。私は逆立ちしても彼みたいにはなれない。まだまだ未熟者だから。

「おはようございます」

 筧くんはまだなにか言いたそうだったけれど、ちょうどそのとき多治見くんが出勤してきて声をかけてきた。
 私も彼もそちらを向き、「おはよう」とあいさつを交わす。

「筧さん、早速なんですけどちょっといいですか? 確認したいことがあって……」
「……ああ」

 多治見くんに呼ばれた筧くんが、私に「ごめん」と合図を送りつつ去っていく。
 彼はいったい、私になにを言おうとしていたのだろう。
 仕事の進捗は逐一報告を入れているのに。

 午後、トイレへ行ったついでに、休憩スペースへ寄ることにした。
 ずっとパソコン画面を見入っていたため、目が疲れて仕方がない。首や肩も凝ってガチガチに固まっている。
 水分を取って喉を潤したら、また続きをがんばろう。
 しかし、休憩スペースへ足を踏み入れようとした瞬間、男性ふたりが話している声が聞こえて足を止めた。
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