彼が甘いエールをくれたから
「優秀なのは私じゃなくて、(かけい)くんだよ」
「今回のチームリーダーですもんね」

 そのとき、話題にあがった人物がちょうどそばを通りかかり、ふたりとも自然とそちらへ視線を向けた。

「なに? 俺のウワサしてた?」

 こちらのう様子に気づいて声をかけてきたのは、同期の筧飛翔(つばさ)だった。
 彼のやさしいバリトンボイスは実に耳心地がいい。

「チームリーダーを任されるなんてさすがだねって話してたの」

 意思の強そうな二重の瞳、高い鼻梁、シャープな輪郭の持ち主で、洒落たブルーのシャツを腕まくりした姿が今日もカッコいい。
 彼に自覚はなさそうだけれど、女性社員からの人気はかなり高いと思う。
 かく言う私も、入社のころから気になっていて、密かに憧れている。

「ルミナの件か」

 彼のつぶやきに、静かにうなずいた。
 株式会社ルミナは国内外で化粧品事業を展開している会社だ。
 新商品の広告を競合無しで受注できたと皆でよろこんでいたけれど、まさか自分がサブリーダーに抜擢されるとは思ってもみなかった。

「忽那がサブリーダーだよな? おめでとう」
「でも……今回、どうして私なんだろう?」
「忽那は真面目だし、コツコツがんばってる姿が認められたんだよ。よかったじゃないか」

 笑みをたたえる彼とは違い、私の顔は曇ったままだ。
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