すべての花へそして君へ①
「トーマ、さん」
「ん?」
視線を下げる彼女が、何を言いたいのかなんて、わかりきってる。彼女が来にくいと思って、自分から来たんだから。
(……まあ、それだけじゃないけど)
でも、ただで返事をされるのもつまらないし、悔しいから『あのこと』は彼女には知っていてもらいたいな。
まあ、言ったところでどうもなんないけど。ただ俺の、自己満足でしかないんだけどね。
「……今、こうして未来を考えられるようになるなんて、本当に夢のようです」
「……うん」
少しだけ。本当に少しだけ言いにくそうにしている彼女に、そっと近づいて。テーブルの下にある、小さな手に俺のを重ねた。
「……!」
たったそれだけのことなのに、大きくビクつく彼女は、やっぱりちょっと重傷だなと、なるほどなと、思った。
「大丈夫。……続けて? 教えてくれるんでしょ? 今の葵ちゃんの気持ち」
「……トーマさん」
基本こういう役回りとか、絶対率先してやらないけど。……でも、彼女のためなら。たまにはこんな役回りも悪くない。
「葵ちゃんは、自分の気持ちを素直に言ったらいい。寧ろ教えて欲しいな。どれだけあいつが好き? 師匠の俺に、ちょっと教えてみてよ」
にひっと笑ってあげると、強張っていた彼女の緊張が、いくらか和らいだ気がした。
……うん。大丈夫。ちゃんと笑えてるよ。
「……幸せに、してあげたいなって、思うんです」
葵ちゃんにこんなこと言ってもらえるなんて、くっそ幸せ者のあいつを殴り倒したくなったけど。
(俺がしてあげたかった、葵ちゃんの幸せそうな顔が間近で見られたことに免じて、今はぶっ飛ばさないでおいてやろう)
さっき少しだけ。つらそうにしていた表情を、笑えるようにしてあげられたのが俺で、……よかった。