すべての花へそして君へ①
「………………そんなわけないだろう」
「今のなっがい間が気になるんだけど」
でも、表情はすごくやさしかった。だから、本当に聞いてくれるんだろうなって思った。……ほんと、みんなやさしいんだから。
「でも大丈夫だよ? わたしは本人に直接言っちゃうからね~」
「そうなのか?」
「うんっ。向こうがなかなか言わない分、わたしが先に言っちゃおうと思って! そうしたら言ってくれるかなって」
「まあ、素直じゃないからな。あいつも」
「そうなんだ。ほんと困ったさんだ」
そう言いながらも、やっぱり彼の姿が頭の中でちらつくだけで頬が緩んでしまった。
「(……日向の話題が出ただけで、すっごく嬉しそうな顔だな。いつから好きだったのか聞くのは野暮か。そういうのも葵は隠してきたんだろうし。……誰にも、気付かれてしまうことがないように。特に本人には……)」
「どうしたの?」
少し目線を下げていたアキラくんは、何かをブツブツ呟いていたけれど、はっきりとした音は聞き取れなくて。尋ねても「なんでもないよ」と返されただけだった。何かあるなら言ってもらいたかったけど、嬉しそうに目を細めていたから、きっと、怖いことじゃない。聞きたいならきっと聞いてくるだろうからと思って、それ以上問うことはしなかった。
「葵? 返事。どうぞ」
「……うん。ありがと、アキラくん」
返事だというのに、こんな気持ちでいられるのは、他の誰でもない、目の前の彼のおかげだった。
「アキラくんの灰色の瞳は、いつ見ても吸い込まれそうで、綺麗だなって思ってたんだ」
だから、正直に話したい。全部。自分の気持ち。
「だから、全然知らなかったんだ。生徒会に入るまでは、こんなに異常な甘党になってるだなんて。だって、普通にイケメンさんだし」
生徒会長という座を得るだけのことはあるだけの美貌。色気を少し漂わせている彼がまさか、糖尿病に脅かされているなんて誰が知っていようか。いや、誰も知るまい。
「編入して、ずっと見てたんだ。ずっと思ってた。左耳を見て。……でも、それが今、できていることがすごく嬉しい。ほんと。よかったよ」
気持ちには応えられないんだ。手紙でも伝えたけれど。でも、それももう、きちんと言える。
「アキラくん。好きって言ってくれて、本当に本当にありがとう。正直、大きな強い想いに押し潰されそうになったこともあるんだ。……それも、決して嫌だったわけじゃない。そこは絶対に間違って欲しくない」
彼の手を取り、小さく笑う。
「……あのね。本当に嬉しかったんだ」
「ああ」
「ほんとだよ? 建前とかじゃない。こんな自分を、今でさえも好きだって言ってくれて……すごく、嬉しいんだ」
「もちろんだ」
「……! ……へへ。そっか」
即答されて、嬉しくてつい笑ってしまった。
(……そっか。わかって、くれてたんだ)
あの手紙でも、その想いはきちんと届いていたんだな。
「(この、今の葵の笑顔だけは、俺に。俺だけに向けてくれたもの。……それだけで、俺は十分だ)」
アキラくんが、本当に嬉しそうに笑っていた。あまり表情が動かない彼の、こんな表情が見られて嬉しい。
やっぱり、返事なのにこう思えるのは彼のおかげだ。だから、その返事をしたいんだけど……。