すべての花へそして君へ①
「落ち着いたか? ていうかこんな遅くに出歩いて何してたんだよ」
「だから、迷子になってたんですって」
「……そうだったな」
感動の再会をして落ち着いたわたしは、取り敢えずカエデさんが通報用の携帯電話を収めてくれたので一安心。
「もう今日は遅い。しかもちゃんと寝てねーんだろ? ……もう、そんなことしなくていいんだから、さっさと今日のところは寝とけ」
彼の表情を見て、どうして今まで気付かなかったんだろうと思う。こんなにもあたたかくて、包まれてるようで。……まるで娘を見るかのようにやさしい瞳をしているのに。
「カエデさんは、もうユズちゃんとは話を?」
「ヒナタから聞いたのか」
「はい。聞きました。……あ。あと、カナデくんたちとは……」
「……ああ。ちゃんと話したよ」
話を聞くと、アキラくんの友達のカナデくんが彼氏になったって聞いていて、正直心配していたらしい。
別に彼やシオンさんたちのことを悪く思っていたわけではない。ただ、彼女は知らなかったはずだから。彼が、五十嵐組の一人息子だということを。
「別に、そんなに弱い娘じゃなかったからな。聞いたところで、それがどうした? ってなるとは思ってた。ただなあ、ユズが姐さんかと思うと、それはそれで似合いすぎてちょっとなと思って」
「……はは」
事件のことを聞いたのは、本当につい最近だという。時期的には、ちょうどわたしが彼を救った頃だ。
「いきなり転校したいとか言ってきたんだ。そんなこと言う奴じゃなかったけど、尋常じゃなかったからな、その時の勢いが。だからまあ、俺も女房も結構家空けてること多いし、滅多に我が儘なんて言わねえから、何かあったんだろうと思って、深くは聞かずにいたんだ」
聞いた時は、そりゃもうブチ切れしたらしいけど、彼女と奥様に説得されたらしい。シオンさんとマサキさんは、きちんと責任者として奥様とは話をしたみたいだ。
「ユズが責めるなって言うんだ。俺は、……何も言えねーよ」
苛々してきたのだろう。また煙草を吸おうとして箱をポケットから取り出したけど、それはもう空になっていて……。その箱を握り潰す彼に、そっと手を触れた。
「……わりい。苛々してた」
「カエデさんが怒ってるのは、自分自身に、なんですよね」
「……アオイちゃん」
そして、触れた手を包み込むように握ってあげる。
「ユズちゃんがそんなことになっていたことを知らなかった。その時何もしてやれなかった。れっきとした父親なのに。……それが悔しいんでしょう?」
「……よくわかってるな、アオイちゃんは」
「だから、もう謝るなって。あなたは言っていたんでしょう?」
「……あおい、ちゃん……?」