すべての花へそして君へ①

「……っ。がんばれっ。かなくん」


 もう、限界だった。堪えられなかった。
 こうなるんだったら、さっさと部屋に帰ればよかったのに。それさえも、……できなかった。


「ふぁ。ふぁ。ふぁいと。だ。かな。くん」


 動けなかったんだ。ここから。動け。ないんだ。


「……。っ。かなくんっ。かなくん」


 どうしてこんなにも好きなのに。あなたはこちらを見てくれないんだろう。でも、知ってる。彼女には敵わない。だって、素敵すぎるんだから。
 あたしには。できなかった。彼から離れることしか。……でき、なかった。


「女の子は、なんでこうも強いんかなあ」

「――!」


 ふわっと肩に掛けられたのは、その人のスーツだった。何の香りかはわからなかったけど、それがすごく、落ち着いた。


「よう我慢したな。柚子ちゃん」


 いつから彼はいたんだろうか。


「ま。まさきさん?」

「よう頑張った。やっぱ強いなあ女の子は」


 どうして彼は、あたしを抱き留めてくれているんだろう。


「……悪かったな。柚子ちゃん。ほんま、……堪忍や」


 なんで彼が謝る必要があるのだろうか。謝罪に来てくれた時、かなくんのお父さんと一緒に、たくさんたくさん頭を下げてくれたのに。


「なんで信じてあげられんかったんかな。よう、知っとったはずやのに」

「まさき……。さん」


 ぽつぽつと彼が零すのは、あたしがまだ、彼の彼女だった時のこと。
 それは、謝罪の時には聞いてなかった。もしかしたら、かなくんのお父さんがいたせいかもしれない。


「聞いとったはずやのに……。最低や、俺は」

「――! まさきさ、それはちがっ――」


 そんなことはないと。言おうと思っても、ただ彼は、抱き締める腕を強くするだけだった。


「俺のなんかで悪いけど、胸貸したるわ。……せやから、一人で泣くんはやめ。な?」


 どうして彼は。来てくれたのだろう。……きっと彼も、誰よりもかなくんが好きなんだろうな。


「……。っ」


 きっとそう。きっとそうだ。だから、隠してくれてるんだ。誰からも見えないように。


「わかれたくなんて。なかっ。たっ」


 こんな、汚いあたしを。最低な、性格の悪いあたしを。


「ずっとずっと。すきだったのにっ」


 かなくんが知ることのないように。


「すきなのにっ! ……。っ、大好きなのに……っ!!」


 彼はただ、ずっと。隠してくれた。


「うあああああぁー……ッ!!!!」


「悪かったな」と「ありがとな」を、たくさんたくさんくれながら。


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