すべての花へそして君へ①
パチンッと頬を叩き涙を拭いて、目元でも冷やそうと腰を上げた時だった。
「……?」
わたしのスマホが、着信を知らせてくれた。誰からだろうと思って画面を見たら、ちょっと取るのを躊躇った。
申し訳ないなと思いながらも電話は取らず、目元を冷やしに一旦わたしは洗面台へと向かった。
――――――…………
――――……
帰ってきた。まだ鳴ってた。
(どうしよう……)
心配させてしまうわけにはいけないと思い、何度も鏡で目元の赤みが落ち着いたかとか、「あ~~。あー」と声を出して涙声ではないかとかを入念にチェックしたあと。
(……。うん。よしっ!)
大変長らくお待たせしてしまった携帯さんを、取ることにした。
「も、しもしっ?!」
そして、今気付いたテイを装う。バッチリだ。完璧だ。
『あ。ごめん、寝てた?』
「ううんっ。いや、携帯さんが鞄の奥底に眠っていたのだよ。なかなか見つからなかったんだ~。鳴らしててくれてありがとー!」
そしてテンション高めに声のトーンを上げる。うむ。なかなかの演技だ。
(……まあ実際、本当に鞄の奥底にありまして)
どうやら、朝日向と花咲のバトルが行われた部屋からカエデさんが持って来てくれていたらしい。演技じゃないです。結構本気で、最後らへんは焦って出ました。
『そう。それはよかった』
「えへへ。……それで? どうしたの?」
まさか、報告しに来なかったことを怒られるのかなと思った。彼ならそれが理由でわたしを呼びつけることくらい、夜中の3時近くても遠慮しないだろうし。
だからそれ用に、いろいろ言い訳とかを考えていたり、衝撃に備えていたりしたんだけど。
『……部屋、行ってもいい?』
思った以上の衝撃に、心臓が口から出てきそうになった。
「……」
どういうことかと頭を巡らせた▼
「……」
どうやっても行き着く先が一緒になった▼
「……!?!?」
それを勝手に妄想して一人で赤くなった▼
『え。お~い。聞こえてる?』
今それどころじゃない▼
『もしもーし。……あれ。返事が返ってこない』
だってもう、それどころじゃない▼
『……あ』
どうしよう。心臓さんが大暴れです。助けてくださいっ。
『なに? なんか変な想像とかしたの?』
そうです▼
……なんて、言えるわけない。
『……ねえ。行きたい。……だめ?』
そうやって。ここぞとばかりに甘えた声を出すのは、本当に卑怯だと言いたい。
『今、絶対真っ赤でしょ。見たい。見に行く』
ちょっと待ってと言いたい。でも今それどころではない。
『心臓さんの残業手当の準備だけしておいてよ。もっとオレが、暴れさせてあげるから』
そして一番『あんた誰ですか』って言いたい。わたしが知ってたあなたは、とっても不器用さんの捻くれさんだと思ってたんですけど。
……誰ですか。ほんと誰ですか。あなたは一体、黒で何を変えたって言うんですかあぁぁ。