すべての花へそして君へ①
「あなた、あおいちゃんの裸見たことある?」
「っ!? はあ!? ちょ、先生!?」
「あるの? ないの?」
「……流石に裸はない、です」
「でも、見たいでしょ? いつか見たいでしょ? ていうか今すぐ見たいか」
「え?! ちょっと先生?!」
「だって欲望さらけ出すようなこと、したいんじゃないの?」
「ええ!? ちょっと!! もうちょっと言葉選んでくださいよ!!」
「違うの?」
「…………ちがわないけどっ」
「私は先生じゃないからね。申し訳ないことに。警察って職業には就いているけれど、ただの女よ? ……一人の女」
黙ったオレにクスッと笑った彼女は、声のトーンを下げた。……何を言おうとしているんだ。
「そういう時にはね、わかるものよ。きちんと全部曝け出してるか、そうでないのか。まあ職業柄かも知れないけれど。……そうでなかったら、正直言って寂しくなる。虚しくなる。ただ体の関係だけならいいと思うわ。でも、あなたたちはそうじゃない」
何を、思い出してるんだ。そんな言い方。まるでそんなことが、あったみたいに。
「私だって、恋人ぐらいいたわ? いないと思ってたでしょ」
「え。……いや、そんなことは全然思ってなかったですけど」
「正直言って惚れっぽいと思うわ、自分のこと。だからあなたたち見てたら、すごいなって思うの。私なんかは、コロコロ好きな人変わってたし」
「そう、ですか……」
昔のことを話したくないなら話さなくていい。別に、言わなくていい。聞かさなくていい。……なのに。
「でも、本気で好きだったわ。……たとえ、利用されてたとしてもね」
「……先生」
どうしてそこまでして、彼女は教えてくれるんだろう。なんでこんなにも、隠すのが上手いんだ。つらいはずなのに。苦しい……はずなのに。
「好きでも私は、仕事も好きだったから。秘密は絶対に守っていたけれど……わかるのよ、隠されてるってことが。何かあるんだって。通貨偽造の疑いで逮捕。私が捕まえたわ」
大人は嫌いだ。隠すから。でも、大人はすごいなって思った。やっぱりいろいろ隠すのが上手いなって。……オレの知ってる大人たちは、みんなそうだな。
「だから、恋愛となるととことん臆病になっちゃうかしらね? それか、好きになったとしも大抵相手がいる人か、誰かを思っている人。奪うなんてことはしないわ? 誰かを思っている彼が……好きだったんだもの」
「……そうですか」
いろいろ経験したからこそ、そうやって隠すんだって思った。隠して、自分自身を、そしてまわりの人を守ろうとするんだと。
ほんと、大人たちは隠すのが上手すぎる。隠さなくていいことまで隠すのだけは……もうやめて欲しいけど。