すべての花へそして君へ①

『ヒナタくん』

『……ん?』


 浮かれきっていたオレを、現実へ戻すように。彼女は何故か、オレの方に手の平を差し出してきた。
 一体何をするつもりなのだろうと、頭の中で首を傾げていると、彼女は『荷物を返せ』と言ってきた。いや、実際はもっと違う言い方だったけど、要はそういうこと。


(……まだわかってない)


 こうしていることに、オレが負担を感じているとでも思ったのか。……いや、思うんだろうな。こいつなら。


『いや、いい』

『え? ……いい、の?』


 何よりも誰よりもやさしいから。その言葉も、音も、仕草でさえも、オレへの柔らかい気遣いが窺える。


(……そういうのはもう、オレには必要ないんだって)


 やさしさ? そりゃ、そうされて嬉しくないことはない。やさしくしなくていいって、そういうことを言ってるわけじゃないんだ。
 ……流石に、こいつに冷たくされたらオレは泣く。絶対泣く。無視されてた時、どれだけつらかったか。


『言ったじゃん。大歓迎だって』

『え……っ』


 ただオレは。……ただ、オレが。


(……この信号渡ったら、左側に道路か……)


 ただ、こいつのために何かしていると、常に思っていたくて。ただ、ものすごくこいつを甘やかしたくて。


(……あ。戸惑ってる)


 そして何より、やっぱりちょっと、意地悪したくて。手から伝わる、彼女の戸惑いに。ほんの少し……いや、結構満足していた。
 けど、意地悪といっても困らせたかったわけじゃない。


(ん……?)


 繋がる手の平から、戸惑い以外もあるような気がした。
 本人は無意識のようだけれど……むぎゅ。むぎゅと。普通に握ってる時にしてきているなら、そんなかわいいことしないでくれって、言いたくなるけど……。


(……違う、か)


 握られる手には幾分か、焦りのような、困惑のようなものを……。


(……違う)


 どこか、不安のようなものを感じたんだ。


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