【コンテスト用シナリオ】君に捧ぐ神曲
第三話
〇次の日の授業後の夕方。大学がある駅の裏通り。雑居ビルが立ち並ぶ一角。地下に下りる細い階段が見える。薄汚れた看板には、LIVE HOUSEの文字。
小花は柊音の後をキョロキョロとしながら歩く。
小花(ここ……どこ……?)
柊音「小花、こっち!」
小花「あの、ここって?」
柊音「俺らがいつもライブするライブハウス。どんな所か小花にも見て欲しくてさ」
柊音は地下へ続く階段を下りながら、笑顔で手を振っている。
小花ゴクリと息をのみながら、そろそろと階段を下りる。
どこからともなく心臓に響く重低音が聞こえ出す。
辺りを見ると、壁にはチラシやポスターが張り巡らされている。
小花(私、大丈夫だよね……?)
下へと降りきり、目の前に大きな重そうな扉が見えてくる。
その時、入り口の横の小さな窓口を見た小花は、ギョッと飛び上がる。
窓口の中にはモヒカン姿で、耳や唇にピアスをいくつもつけた、いかつい男性がギロリと目を光らせていたのだ。
柊音「レンさん、こんにちは。二枚お願いします」
レン「……はいよ」
柊音は料金を支払う。
お金を受け取ったレンは、目を細めながら小花を静かに見た。
小花(こ、殺される……悪魔の顔だ……)
小花は縮み上がりながら、柊音の影にそっと身を寄せた。
柊音「もしかして、ライブハウスって初めて?」
小花こくこくと大きくうなずく。
柊音「じゃあ、初めは耳を塞いどいたほうが良いかもなぁ」
柊音がそう言いながら扉を押し開けた瞬間、爆発音のような爆音が小花を包み込み、小花は腰を抜かしてしまった。
〇ライブハウスの中。ステージではバンドの演奏中。立ち見の観客が腕を振り上げて歓声を上げている。真っ暗な会場の後ろにはいくつかの背の高い椅子が置いてある。
柊音は腰を抜かした小花を、慌てて抱きかかえる。
小花は柊音に支えられたまま、一番後ろの背の高い椅子に腰かけた。
見上げると、ステージでは派手なバンドが演奏をしている。
大音量の中、身体を揺らしながら演奏を聴く柊音。
小花は目が回りそうになりながら、ただ圧倒されるままその場に座っていた。
小花(初めての世界だ……)
ふと顔を上げると、柊音が嬉しそうに小花を見つめている。
小花はドキッとして慌てて前を向いた。
〇演奏が終わった会場。ライトがつき全体が明るくなる。
ステージ上では別のバンドが機材の準備を始めている。
観客は会場の半分くらいで、皆知り合いなのか楽しそうに会話している。
どこかに行ってた柊音が、ドリンクを二つ持って戻って来る。
柊音「ラムコークだけど飲める?」
小花「ラムコーク……?」
小花は透明のカップに入った冷たいドリンクをゴクリと飲む。
コーラのようだが独特な風味のドリンクは、甘くてとても爽快で美味しい。
緊張していた小花は、ついごくごくと喉に流し込む。
あまりの美味しさに感動する小花。
すると柊音が慌てて止めに入る。
柊音「小花! それ……アルコール」
小花「へ?」
小花は急に頬がぽーっと赤くなってくる。
途端に酔っ払いになる小花に慌てる柊音。
柊音「小花、お酒は初めてじゃないよね?」
小花「は、はい……何度か飲んだことは……ヒック」
酔っ払いになり急に気が大きくなった小花。
柊音の制止を振り切ってステージの前へと出る。
その場にいた人たちと、音楽を楽しみだす小花。
柊音はぷっと吹き出すと、そんな小花の様子を後ろから楽しそうに見つめていた。
〇深夜。小花のアパートまでの帰り道。車はまばらで人は誰も歩いていない。
散々はしゃいで酔っぱらった小花は、柊音におんぶされている。
小花「柊音さんはぁ、とにかく声がいい」
柊音「はいはい。さっきから何回も聞いたよ」
小花「だからぁ、もっと歌で愛を叫ぶべきですよ。そうしたらぁ、私もきっと泣けると思います」
柊音「愛ねぇ。まだ恋もよく知らないのに?」
小花「神曲はですね。愛の話なんです。ダンテのベアトリーチェに対する愛の……」
小花はフワァと大きなあくびをする。
小花「柊音さんはぁ、天使です。私みたいな、ぼっちを見つけてくれた天使……」
スーッと寝息が聞こえ出し、小花はそのまま柊音の背中で寝入ってしまう。
柊音はそっと小花に顔を向ける。
柊音「小花の恋はどうなの……?」
小花はむにゃむにゃと口元を動かすと、再び寝息を立てだす。
優しくほほ笑んだ柊音は、小花をおぶったまま、月明かりの下をゆっくりと歩いて帰った。
〇次の日の昼間。大学の学食。多くの学生が楽しそうにランチをしている。
丸いテーブルに小花、柊音、柊音のバンドメンバーの三人が座っている。
涼(ギター)は茶髪の短髪で小柄なタイプ。隆二(ベース)は黒髪の長髪ストレートで背が高く知的な雰囲気。太一(ドラム)はどっしりとしたお茶目タイプ。
涼「へぇ、この子かぁ。柊音がおぶわされたって子」
太一「なかなかいい度胸してるんじゃない?」
小花「ほ、本当に申し訳ございませんでした……」
みんなに見つめられて小さくなる小花。
隆二「でも、アルコール入りだって言わなかった柊音が悪い。小花ちゃん、体調は平気?」
小花「は、はい。平気です」
優しい隆二に、小花はぱっと笑顔になる。
隆二と小花のやり取りをチラッと気にする柊音。
〇柊音回想
小花をアパートの二階の部屋まで送った柊音。玄関で帰ろうとしたが、小花が転びかけたためベッドまで連れて行く。
小花「柊音さんの声は、本当に素敵なんです……」
むにゃむにゃと眠る小花。
柊音はそっと小花の眼鏡を外す。
初めて見る小花の素顔に、ドキッとする柊音。
柊音は小花の寝顔を覗き込む。
柊音「俺、バンドは諦めようと思ってた」
柊音「でも、小花と出会って、もう一度頑張ってみようって思えたよ」
柊音の息がかかったのか、くすぐったそうにふふっと笑う小花。
柊音はふいに小花の頬にキスしようとして、慌てて顔を上げる。
真っ赤な顔を腕で隠す柊音。
柊音(俺、今、何しようとした……?)
柊音は慌てて立ち上がると、部屋を出て鍵を閉める。鍵はドアのポストへ入れ、走って帰った。
〇現在に戻る
柊音「とにかく!」
柊音「俺は曲作りを始めることにしたから」
太一「お、気合入ってるじゃん。柊音のそんな顔、久しぶりに見たな」
涼「これはいい兆候じゃない?」
エッヘンと腕を組む柊音に、太一と涼は身を乗り出す。
隆二は静かに柊音を見つめたまま。
柊音「っていうことで、小花。協力頼むよ」
小花「え!? 協力!? どういうことですか!?」
柊音は小花の肩に手をかける。
ドキッとして頬を染める小花。
そんな二人の様子を隆二がチラッと見る。
別の席では女子学生たちが、ひそひそと話をしながら見ていた。
小花は柊音の後をキョロキョロとしながら歩く。
小花(ここ……どこ……?)
柊音「小花、こっち!」
小花「あの、ここって?」
柊音「俺らがいつもライブするライブハウス。どんな所か小花にも見て欲しくてさ」
柊音は地下へ続く階段を下りながら、笑顔で手を振っている。
小花ゴクリと息をのみながら、そろそろと階段を下りる。
どこからともなく心臓に響く重低音が聞こえ出す。
辺りを見ると、壁にはチラシやポスターが張り巡らされている。
小花(私、大丈夫だよね……?)
下へと降りきり、目の前に大きな重そうな扉が見えてくる。
その時、入り口の横の小さな窓口を見た小花は、ギョッと飛び上がる。
窓口の中にはモヒカン姿で、耳や唇にピアスをいくつもつけた、いかつい男性がギロリと目を光らせていたのだ。
柊音「レンさん、こんにちは。二枚お願いします」
レン「……はいよ」
柊音は料金を支払う。
お金を受け取ったレンは、目を細めながら小花を静かに見た。
小花(こ、殺される……悪魔の顔だ……)
小花は縮み上がりながら、柊音の影にそっと身を寄せた。
柊音「もしかして、ライブハウスって初めて?」
小花こくこくと大きくうなずく。
柊音「じゃあ、初めは耳を塞いどいたほうが良いかもなぁ」
柊音がそう言いながら扉を押し開けた瞬間、爆発音のような爆音が小花を包み込み、小花は腰を抜かしてしまった。
〇ライブハウスの中。ステージではバンドの演奏中。立ち見の観客が腕を振り上げて歓声を上げている。真っ暗な会場の後ろにはいくつかの背の高い椅子が置いてある。
柊音は腰を抜かした小花を、慌てて抱きかかえる。
小花は柊音に支えられたまま、一番後ろの背の高い椅子に腰かけた。
見上げると、ステージでは派手なバンドが演奏をしている。
大音量の中、身体を揺らしながら演奏を聴く柊音。
小花は目が回りそうになりながら、ただ圧倒されるままその場に座っていた。
小花(初めての世界だ……)
ふと顔を上げると、柊音が嬉しそうに小花を見つめている。
小花はドキッとして慌てて前を向いた。
〇演奏が終わった会場。ライトがつき全体が明るくなる。
ステージ上では別のバンドが機材の準備を始めている。
観客は会場の半分くらいで、皆知り合いなのか楽しそうに会話している。
どこかに行ってた柊音が、ドリンクを二つ持って戻って来る。
柊音「ラムコークだけど飲める?」
小花「ラムコーク……?」
小花は透明のカップに入った冷たいドリンクをゴクリと飲む。
コーラのようだが独特な風味のドリンクは、甘くてとても爽快で美味しい。
緊張していた小花は、ついごくごくと喉に流し込む。
あまりの美味しさに感動する小花。
すると柊音が慌てて止めに入る。
柊音「小花! それ……アルコール」
小花「へ?」
小花は急に頬がぽーっと赤くなってくる。
途端に酔っ払いになる小花に慌てる柊音。
柊音「小花、お酒は初めてじゃないよね?」
小花「は、はい……何度か飲んだことは……ヒック」
酔っ払いになり急に気が大きくなった小花。
柊音の制止を振り切ってステージの前へと出る。
その場にいた人たちと、音楽を楽しみだす小花。
柊音はぷっと吹き出すと、そんな小花の様子を後ろから楽しそうに見つめていた。
〇深夜。小花のアパートまでの帰り道。車はまばらで人は誰も歩いていない。
散々はしゃいで酔っぱらった小花は、柊音におんぶされている。
小花「柊音さんはぁ、とにかく声がいい」
柊音「はいはい。さっきから何回も聞いたよ」
小花「だからぁ、もっと歌で愛を叫ぶべきですよ。そうしたらぁ、私もきっと泣けると思います」
柊音「愛ねぇ。まだ恋もよく知らないのに?」
小花「神曲はですね。愛の話なんです。ダンテのベアトリーチェに対する愛の……」
小花はフワァと大きなあくびをする。
小花「柊音さんはぁ、天使です。私みたいな、ぼっちを見つけてくれた天使……」
スーッと寝息が聞こえ出し、小花はそのまま柊音の背中で寝入ってしまう。
柊音はそっと小花に顔を向ける。
柊音「小花の恋はどうなの……?」
小花はむにゃむにゃと口元を動かすと、再び寝息を立てだす。
優しくほほ笑んだ柊音は、小花をおぶったまま、月明かりの下をゆっくりと歩いて帰った。
〇次の日の昼間。大学の学食。多くの学生が楽しそうにランチをしている。
丸いテーブルに小花、柊音、柊音のバンドメンバーの三人が座っている。
涼(ギター)は茶髪の短髪で小柄なタイプ。隆二(ベース)は黒髪の長髪ストレートで背が高く知的な雰囲気。太一(ドラム)はどっしりとしたお茶目タイプ。
涼「へぇ、この子かぁ。柊音がおぶわされたって子」
太一「なかなかいい度胸してるんじゃない?」
小花「ほ、本当に申し訳ございませんでした……」
みんなに見つめられて小さくなる小花。
隆二「でも、アルコール入りだって言わなかった柊音が悪い。小花ちゃん、体調は平気?」
小花「は、はい。平気です」
優しい隆二に、小花はぱっと笑顔になる。
隆二と小花のやり取りをチラッと気にする柊音。
〇柊音回想
小花をアパートの二階の部屋まで送った柊音。玄関で帰ろうとしたが、小花が転びかけたためベッドまで連れて行く。
小花「柊音さんの声は、本当に素敵なんです……」
むにゃむにゃと眠る小花。
柊音はそっと小花の眼鏡を外す。
初めて見る小花の素顔に、ドキッとする柊音。
柊音は小花の寝顔を覗き込む。
柊音「俺、バンドは諦めようと思ってた」
柊音「でも、小花と出会って、もう一度頑張ってみようって思えたよ」
柊音の息がかかったのか、くすぐったそうにふふっと笑う小花。
柊音はふいに小花の頬にキスしようとして、慌てて顔を上げる。
真っ赤な顔を腕で隠す柊音。
柊音(俺、今、何しようとした……?)
柊音は慌てて立ち上がると、部屋を出て鍵を閉める。鍵はドアのポストへ入れ、走って帰った。
〇現在に戻る
柊音「とにかく!」
柊音「俺は曲作りを始めることにしたから」
太一「お、気合入ってるじゃん。柊音のそんな顔、久しぶりに見たな」
涼「これはいい兆候じゃない?」
エッヘンと腕を組む柊音に、太一と涼は身を乗り出す。
隆二は静かに柊音を見つめたまま。
柊音「っていうことで、小花。協力頼むよ」
小花「え!? 協力!? どういうことですか!?」
柊音は小花の肩に手をかける。
ドキッとして頬を染める小花。
そんな二人の様子を隆二がチラッと見る。
別の席では女子学生たちが、ひそひそと話をしながら見ていた。