サヨナラじゃない

〚アラレという名の〛

月に亀裂が入った。
あり得ない光景だ。
その亀裂は一瞬にして周りを壊した。
ボロボロと崩れる世界。
何かの夢だと信じたい。だが、先程の頬の痛み、あれは確かだ。
怖い。
酷く久しぶりに感じた恐怖。
でも、そんなことを思っているなら、
この状況をどうにかしなければ。
でも、
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い。
怖い。
いつの間にか身体は、浮遊感に晒されていた。ヒューッと、身体が真っ逆さまに落ちていく。
元々はこんなに高さはなかったのにっ!
情けない声を叫ぶ余裕すらない。
下を覗くと、先程のコンクリートはなくなっていて、周りの景色と同じ色に染まっている。
その色は、なんとも言い難い色だ。
深緑のような色ともいえる。
でも、黒色や深紫にも見える。
なんだか、時間が経つと色が混ざるように変わっていくよう。
一瞬、底が見えたような気がした。
『落ちる』
直感で感じた。
知らない所で死にたくない。
でも、多分私は、ここで死ぬために産まれてきたのだろう。
身体が強張る。ギュッと目を瞑った。
私を待ち受けていたのは、
強い衝撃ではなく、ひんやりとした、
人の手に抱きかかえられているようだった。 
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