すべての花へそして君へ②

「……あ。サラさーん!」

「アオイちゃん! ほんとに来てくれたのね!」


 猫の手を貸すことにはなったものの、さすがに子どもたちにそこまでさせるわけにはいかないということで。『ついでにこっちに来る便がある時になら』という条件で、捜索のお手伝いすることになったのだ。
 その条件がピッタリとはまったのが、熱海へと来ていたこの旅行。はじめは、『せっかくみんなで来るのに』と気が引けていたけれど、そこは自慢の彼氏さんに背中を押してもらい、本日はこのメンバーで来ることに決めたのだ。


「お久し振りです! ハイッ! ポーズ決めてくださ~い」

「おっけ~。こんな感じ?」

「もっとセクシーに!!」

「えー。昔はおっとり系だったのにいー」

「ギャップ萌えというヤツですよ」


 わたしたちのやり取りに、男性陣は一体何が始まったのかと、最初は固まっていたけれど。楽しんでるのが伝わったのか、終わり頃にはあたたかい目で見守ってくれていた。


「うん。こんなものでしょうっ!」

「どれ?」

「あ。どうどう? ヒナタくんに教えてもらって、わたし結構撮るの上手になったと思わない?」

「まあはじめの頃に比べたら。でも、ここはもうちょっとこっちのアングルがいいと思うし、若干やっぱり逆光になってるからそこは気を付けて、あとはうんぬんかんぬん……」


 厳しい評価は受け流すことにして▼
 わたしたちは、駅まで迎えに来てくれていた彼女の車へと乗り込んだ。あ。ちなみにさっきのサラさんの写真は、車に手をつき、サングラスを口に少しだけ咥え、顎を引いたようなポーズ。彼女はサテンの白いノースリーブを着ていて、大人な女性を醸し出していた。……なので。


「……イイッ!!」

「カオル。コズエさんに怒られるよ?」

「カオルは、守るより守られたい派ですから。こういう女性には目がないのでしょう……」


 そんな彼女に、若干カオルくんが釣れた▼
 でもやっぱりコズエ先生には敵わないのか、そのあとは彼の話にアイくんとレンくんが付き合わされていたけれど。
 それからしばらくすると、海が……見えてきた。


「捜索には船に乗っていくんだけれど……その、確かアオイちゃん、舟は」

「大きいですか? 小さいですか?」

「……どちらかと言えば、小さいわ」

「そっか。……苦手克服って、“海”じゃなくて“舟”の方だったのか、モミジさん」

「……? アオイちゃん?」


 到着した車の中から見えるのは、真っ白い砂浜と雲、青い海と空。捜査で立ち入り禁止なのか。それともこの場所自体がそもそも遊泳禁止なのか。その白い砂浜に人の足跡はなく、真っ新でとても綺麗だった。


「……大丈夫?」


 俯いて流れ落ちた髪をそっと掬いながら、彼が顔を覗き込んでくる。


「まだ舟に乗ったわけじゃないよ。もう顔色悪い」

「……ごめん」

「まあ九条くん。アオイちゃんもしんどそうだから、舟には乗らずに砂浜の方で……」

「このままでいいの」

「……」

「……外で待ってるわね?」


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