すべての花へそして君へ②
サラさんと、それからアキラくんたちが車から降りてすぐ、何やら遣り取りをしている声が聞こえ始める。どうやら、これからの捜索について説明を受けているらしい。
「ねえあおい、どうするの」
「……行く」
「そんな顔色してたら行かせらんない」
「……! い、行くん、だっ」
「ダメ。せめて顔色戻してからじゃないとここから出させない」
「……」
もう、父と母の思いも聞いた。それにわたしも納得した。……けれど。わかってはいるけれど。死にかけたものにまた乗るのは、恐怖でしかない。
(でも。このままじゃダメなんだ)
怖い、ままじゃ……。
「行く」
「まだ顔色悪い」
「いいや。悪くても行く」
「……乗ってる最中に気分悪くても降ろしてあげられないよ。わかってる?」
「わかってる」
いつの間にか、外の人たちの声が聞こえなくなっていた。……どうやら、一足早く舟場へと向かったらしい。
「捜査の邪魔になるようなことはできない。でも、そのままのあおいなら、絶対邪魔になるよ」
「ならない」
「いいや。なる」
「ならない……っ!」
「……なるよ。気分が悪くなって、迷惑掛けたくないから我慢する。絶対にそうなる」
「……っ。なら、ないっ」
なんでわかってくれないんだと。悔し涙で目の前の彼が歪みだした時、そっと頭が引き寄せられた。……大好きな、おひさまのにおいがする。
「あのさ。このままだったら、カナタさんやクルミさんに悪いって思ってるんでしょ?」
図星の言葉に、ビクッと素直に体が跳ねた。
「しょうがないじゃん。怖い思いしたんだから。怖くて当たり前でしょ? オレが言ってるのは、怖いってことを受け入れなさいってこと」
「……え?」
ほんの少しだけ離れたところから盗み見るように視線を上げると、それに気付いた彼は柔らかい笑顔を浮かべて、よしよしと頭を撫でてくる。
「いい? 人間誰しも怖いものはあるでしょ?」
「ひなたくんも……?」
「え。あるに決まってるじゃん。去年のビーチバレーのあと、すごい気分悪くなったんだけど」
「え? 何したの? わたし、海に落ちちゃったから……」
「罰ゲームで洞窟の中入ったでしょうが」
「……閉所恐怖症? 暗所恐怖症……?」
「……幽霊とか、そんな類い」
「え。……ホラー映画とかも?」
「それは作り物ってわかってるから大丈夫」
「……お化け屋敷も?」
「そういう場所にはよく出るって言うでしょ? だから気分悪くなるんだって。あとついでに、ジェットコースターとかつくった奴をこの世から抹殺したい」
「ははっ。そうなんだー……」