すべての花へそして君へ②
意外にもいっぱいあるな~と、撫でられている手が気持ちよくてへにゃり。でもそんな緩んだ頬を、びろ~んと引っ張られた。
「だから、怖くていいんだって。無理しなくていいの」
「へ。へも。いふ……!」
「うん。行きたいのは知ってる。 オレが言ってるのは、行くことをやめろってことじゃなくて、怖いなら頼ってってこと」
「……へ?」
「絶対に舟は沈まない」
「ひにゃらきゅん……?」
「喉が渇いたなら、飲み物持ってるからそれあげる」
「ひにゃ……」
「オレが一番怖いのは、あおいがいなくなること」
頬から離れた手は、再び後頭部と腰元へ。強く強く、彼はわたしを引き寄せた。
「だから、……オレが怖いから。オレのそばから離れないで。ずっと、オレのそばにいて」
必死。だけどちょっと可愛い声。そんな彼に気付かれないように、ほんの少しだけ小さく笑って。
(……ひなたくん)
うん、と。小さくこぼしながら。彼のパーカーの紐を、ぎゅっと握った。
「……あれ? 意外に大きい……」
それからバッチーンッと、容赦なく頬に活を入れてもらったわたしも、舟場へと向かったのだけれど。
「あ、葵? ほっぺた、どうしたんだ……?」
「ん? 気合い入れてもらってた!」
「……とかなんとか言いつつさ~、イチャついてたんじゃないのー九条くん?」
「まあ、世の中にはそう言う人もいるだろうね」
「何をやってたんだ何を……」
「車の密室っ!? 今度コズエさんにやってみますう」
盛り上がっている人はさておいて▼
舟場……と言っても、彼らの舟が停まっているだけだから、そんなに何隻もあるわけではない。しかも、サラさんたちが乗ろうとしている“ふね”は、十分立派な船だった。
「アオイちゃん、来られたのね」
「サラさん。十分大きいと思います……」
「あらそう? さすがに、今話題の豪華客船よりは小さいと思うけどー?」
「そんな船と比べないでくださいよ……」