すべての花へそして君へ②
「さっさと組めや、トーマ。ここでハッキリ、力の差をわからせてやる」
「そんなのもう、組まなくったってハッキリ身長差はわかってるよ。この場の誰もが」
「だから!! そうやって時間稼ぎするんならオレだって容赦しねえぞ!!」
「え? 別にしてないけど? 組みたかったら組んでもいいけど、あとから酷い目に遭うのはチカだよ?」
……ねえ。ダメだよ。この戦いもダメだって。ただ、チカくんがかわいそうだよ。
「あれは陰湿なやり方だね。さすがのオレも……お手本にしよう」
「しないであげてっ。お願いだから」
ここは幼馴染み対決。チカくんは腰を落とし、トーマさんへと飛びかかるすんでの所で止まっている。対するトーマさん。彼の陰湿なやり方というのは……。
「……あ。これがいいね。チカがビービー泣いてる写真。この頃は……130? うっわ。ちっさ」
「子どもだから当たり前だろ!」
「はあ? なに言ってんの? お前背の順になって誰か越した人いんのかよ。……っと。次の写真は、当時143」
トーマさんは、スマホになぜか入っているチカくんの写真を(※わたしが見せてもらったときはなかったはず)見せつつ、それでいて彼が一歩近付いてきたと同時に……。
「はい。また近付いたー。〈あおいちゃんへ これはとうとうチカがフジばあに“はじめて”を奪われたときの写真です どうぞ受け取ってください〉……っと」
「なんでそんなもん持ってんだよっ……!!」
その写真の事細かな詳細&チカくんの成長記録(※主に身長)をメールに添付。どうやら、送信ボタンを押せば、それがわたしに届くらしい。
「よかったね。そのうち送られてくるんじゃない?」
「どうしよう……。はじめてとかはどうでもいいんだけど、ちっちゃい写真は今すぐ欲しい」
「そこっ! 余計なこと言わないで頼むからっ!」
わたしは、ぎゅっとスマホを握り締めた。
「チカくんっ頑張って!! ねえ! 頑張って! お願いっ!!」
「……邪心が見えてんぞ」
「全然邪じゃないよ! 純粋に欲しいんだよ!」
「やらねーよっ!!」
結局はチカくんのプライドが勝ってしまって、トーマさんに降参。……残念。
「……あ」
「「「え?」」」
「……ご、ごっめ~ん、チカ。うっかり手が滑っちゃった。てへ」
「!? ……っ、アオイ! スマホ貸せ! 絶対貸せ!! 今すぐ消――」
「絶対嫌」
「えええ……」
しばらくチカくんの震えは治まらなかったらしい。
その後、彼がわたしのスマホの中身を確認できる日が来るかどうかは……まあ確認だけならいいけど。――絶対に消させない。