誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「もう、あの人と関わらない方がいいです。期待しても、きっと……」

そこで言葉を切った美羽さん。

だがその時、川口さんがハッと顔を上げ、涙をにじませたまま、ぽつりと言った。

「でも……もう、本気なんです……」

その一言に、空気が揺れた。

私は思わず手に持っていたロッカーの鍵を握りしめた。

胸が苦しい。あの人が誰かに“本気にさせる”ことができるのなら――きっと、私も。

美羽さんは黙って川口さんを見つめていた。そして私も、言葉を失っていた。


帰り道。

いつものようにエレベーターを降りたその時だった。

ビルのロビーの柱にもたれて、桐生部長――隼人さんが私を待っていた。

「今日、飯でも……」

「結構です。」

私は彼を見ようともせず、そっけなく言い放った。
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