誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「――あの時もそうだったな。」

「えっ?」

「君に書類の確認、されたとき。篠原主任になってすぐの頃。」

ふと、あのときの記憶がよみがえる。

新人教育でてんてこ舞いだった頃、必死に彼のミスを見つけて指摘したことがあった。

隼人さんは涼しい顔で返してきたけど……。

「君は、真っ直ぐに俺を見てた。ずっと。」

「だって……あの時は……」

思わず視線を逸らした。

あのとき、彼の完璧さに気圧されそうになりながらも、負けたくなくて必死だった。

「それにさ――俺の甘い声にも、騙されなかったし。」

「はあ?」

思わず声が裏返った。

彼はいたずらっぽく口元を上げた。

「俺、声にはちょっと自信あるんだよ。女性受け、いいってよく言われる。でも、君には全然効かなかった。」

「……意識は、してましたよ。」
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