誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
唇が重なった瞬間、時間が溶けた。

あの日、出会った頃の記憶が、ふいに胸に浮かんだ。

名前を呼ばれるたびに高鳴った鼓動。何気ない視線の交差に揺れた心。

今、そのすべてが、この体温の中に溶けていく。

「紗英……」

優しく名前を呼ばれて、目を閉じる。

彼の息が、頬をかすめる。ぬくもりが、ひとつずつ重なっていく。

指先、額、首筋、鎖骨へと辿る唇の跡に、心まで染められていく気がした。

「大丈夫……?」

囁きは風よりも優しく、私の不安をとかしていく。

うなずくと、彼の腕が背中を包んだ。

まるで、迷子になった心を抱きしめるように。

すっと、身体の奥に入り込むような気配。

痛みではない。

むしろ、空白だった場所に、何かが満ちていくような感覚。

彼が、私の中に存在し始めた。
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