誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
わざとらしく敬礼してみせる彼に、つい笑ってしまった。

そして、ドアの前。

「じゃ、先に出て。エントランスで待ち合わせると怪しまれる。」

「了解です。」

靴を履こうとした私の後ろから、彼がそっと声を落とした。

「行ってらっしゃい、俺の恋人。」

その一言だけで、今日一日のエネルギーが満ちていく気がした。

そして、先に会社に着いた私は、自分の席に荷物を置いて資料室へ向かおうとした。

そのとき、すれ違いざまに、すっと通り過ぎる女性がいた。

「あっ……」

小柄で、きっちりと巻かれた髪。赤のリップが印象的な、美香さん――。

確かに、あの夜。隼人さんのスマホに表示されていた名前。

「……おはようございます。」

私が挨拶すると、美香さんはぴたりと足を止め、こちらを見た。
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