誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
その軽い物言いに、胸の奥が少しだけざわつく。

私は書類を手元に置き、静かに自分の椅子にも腰を下ろした。

「どなたとの接待ですか?」

彼は眉をわずかに動かした。ほんの一瞬、考えるようなそぶりを見せる。

「取引先だ。」

「具体的に社名を仰ってください。」

一歩も引かずに、私はそう返した。

この瞬間、彼の目が変わった気がした。

冗談でも軽口でもなく、私を“仕事相手”として見る目に。

緊張で手のひらが汗ばむのを感じながら、私はまっすぐに彼を見返した。

ここからが、本番だ。

私は震えを隠すようにして、彼の前に申請書の束を差し出した。

「こちらに、記載をお願いします」

できるだけ丁寧に、でも揺れない声で。

桐生部長はその書類に視線を落としたかと思うと、ふいに顔を上げ、私の顔を覗き込んだ。
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